Dearest My Lady
たったひと言の違和感は、次の影を呼ぶ。投稿の数が増えるにつれ、どこかの誰かが紬を知ったように語り始めた。
〈中学一緒だったけど、いっつも男連れて歩いてたよ〉
〈美人を鼻にかけて、大学でも男を取っ替え引っ替えしてた〉
もちろん、どれも根拠のない作り話だ。だが真偽よりも刺激を求める人々にとって、噂は都合よく消費される娯楽にすぎない。面白い形に歪められるほど、拡散は加速度を増していく。
知らぬ間に、けれど確実に。紬を取り巻く空気は、静かに色を変えていった。
やがて、影はまったく関係のない場所にまで及ぶ。気づけば、動物病院の口コミページにも見覚えのない書き込みが現れていた。
〈噂の婚約者が働いてる病院!確かにめっちゃ美人だった〉
〈患者に色目使ってた。こんな人がいる病院に家族を預けられない〉
「……っ」
思わず息を呑んだ。事実ではない。それでも、文字として残れば本当らしく見えてしまう。
そのうち、興味本位の来院者まで増え始めた。診察でも治療でもなく、ただ噂の“悪女”を見に来るために。