Dearest My Lady

「ねえ、紬ちゃん」

やわらかな呼びかけなのに、その先に続く言葉を予感させるような、静かな間が落ちた。紬が顔を向けるより早く、央は穏やかな声で続けた。

「……俺に、何か話すことない?」

その問いに驚いて、紬は瞬きをした。そこに問い詰めるような強さはなく、ただ、何かに気づいている人の目だった。

(なっちゃん……やっぱり、気付いてたんだ)

央を信じていないわけじゃない。言い出すきっかけが掴めず、不安を吐き出す勇気が足りなかった。頼りたいと思いながら、その一歩の踏み方がわからなかった。

「……わ、私……」

言葉がようやく喉元まで上がってきたのに、央の眼差しに触れた瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。何かを吐き出そうとするほど、息が詰まる。

紬が弱音をこぼせば、央は必ず動く。たとえ自分の仕事がどれほど大変でも、きっと迷わず手を伸ばしてしまう。そんな央に、これ以上負担を増やしたくなかった。

SNSの噂なんて、いつかは収まる。その間だけ自分が少し踏ん張ればいい──そう思ってしまった。

(本当の私は、なっちゃんが知っていてくれたら、それでいい)

「……話すことなんて、ないよ。急にどうしたの?なっちゃん」

だから、紬は口を閉ざすしかなかった。

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