Dearest My Lady
作り笑いが、頬だけで浮いた。けれどその不自然さを見抜いたように、央の眉が静かに下がる。
その琥珀を宿した瞳にも、そっと淡い陰が落ちた。
「……やっぱり俺は、紬ちゃんにとっては弟でしかないのかな」
「え……?」
その一言が、胸の奥に小さなひっかかりを残した。
「……俺って、そんなに頼りにならない?」
どこか頼りどころを失ったような声音だった。何かを間違えた気はするのに、理由がわからない。その曖昧な痛みが、胸に突き刺さる。
紬が答えを探しているあいだに、央はふっと視線を外した。ほんの一拍置いてから立ち上がり、平静を装うように口元を引き上げる。
「……そろそろ出るね。今日は少し早いから」
いつもなら添えられるはずの一言もなく、声はわずかに乾いていた。
「な、なっちゃん……」
返した声は、予想以上に上ずっていた。
玄関まで追いかけていったももに「お留守番な」と声をかける音がする。ロックが外れる金属音、ドアの開閉。その一つひとつが、さっきの会話静かに区切りを打つ。
「………」
ドアが閉まったあとも、紬はしばらく席を立てなかった。叱られたわけでも、責められたわけでもない。ただ、大切ななにかを手放してしまったような感覚だけが残っている。
胸の奥に沈む違和感の正体がつかめないまま、紬は食べかけのメロンパンに視線を落とした。