Dearest My Lady
央が悪戯っぽく笑い、紬も笑顔を返す。冗談めかした言葉なのに、なぜか胸の奥が少しだけ温かくなる。
「なっちゃんに先生呼ばわりされると、なんか変な感じがするね」
「そう?でも、ここではそう呼んだ方がいいよね?本当は」
「今は他に誰もいないし、どっちでもいいよ。私もなっちゃんって呼んじゃってるし」
「そっか。じゃあ遠慮なく」
央の声音がわずかに柔らかくなった。一瞬だけ目が合い、どちらからともなく笑みがこぼれる。その穏やかさに包まれて、紬はふと気づく。──この病院で心から力を抜ける瞬間は、彼が来るときだけだと。
央達が最後の午前患者だったこともあり、診察を終えると一緒に待合室に向かった。二人で並んで椅子に座り、傍でももが床に伏せると紬は自然とその背中に手を添え、手入れの行き届いた毛並みを撫でた。
「大学、もうすぐ卒業だね。今日は学校お休み?」
「うん。会社の研修も始まってるから、この後はそっちに出る予定なんだ」
声は穏やかで軽やかだ。けれど、紬は知っている。まだ若い彼が背負う責任の大きさを。