Dearest My Lady
会議を終え、視察先となる月城グループ最高峰のラグジュアリーホテル「パレス・ルナティア」に到着し、会場予定フロアへ足を踏み入れると、白い壁と静かな空気が広がっていた。
「ここが、今回改装する予定のスペースになります」
石神の説明を合図に、メンバーたちは資料片手に思い思いの方向へ散っていく。紬はそっと中へ踏み込み、図面と照らし合わせながら慎重に歩を進めた。
「紬ちゃん、どうかな。気になるところある?」
すぐ隣に寄ってきた央が、声を落として尋ねる。紬は視線を巡らせながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「えっと……そうだね。まず、思っていたより音が反響しやすいかも。あとは……保護猫や保護犬って過去の経験から警戒心が強い子も多いから、人が増えると落ち着きにくいことがあって。そういう時に“隠れられる場所”があると安心しやすいから、改装のときにそのスペースを作れたらいいなって考えてた」
央は紬の言葉を受けて壁に軽く触れ、素材感を確かめるように指先で叩いた。
「うん、確かに反響あるね。吸音パネルは入れたほうが良さそう。隠れるスペースは……パーティションとかキャットウォークとか、可動式で組み込むのもアリかな」
「いいと思う。そういう工夫があるだけで、安心できる子がぐっと増えるはずだよ」
紬がそう返すと、央はふっと口角を上げた。
「……やっぱり紬ちゃんに見てもらうと全然違うね」
それは、会議室で見た事業部長としての声音ではなく、いつもの央の、紬だけに向けられる穏やかなトーンだった。仕事の空気の隙間から覗いたその柔らかさに、紬の胸が熱くなる。
気持ちを整えるように一度深く息を吸い、紬は次の気づきを口にする。
「そ、それと……やっぱり動線は、少し広すぎるかな。人が通りすぎるのも、敏感な子にはしんどいから」
「そっか。じゃあ区画案はデザイン部に戻して再検討だね」
央は腕を組み、全体の構成を思い描くように広いフロアを見渡していた。