Dearest My Lady


事前のPR効果もあり、開場前の外には来場者だけでなく各社の記者たちが並び、静かな緊張が空気に溶け込んでいる。

紬は受付横の壁に貼られた進行表を見つめ、ゆっくりと息を吸い込んだ。胸の奥には張りつめた緊張が広がり、手にしたタブレットにはじんわりと汗がにじむ。

「紬ちゃん」

名前を呼ばれた、その直後だった。振り返るより先にあたたかな手がそっと重なり、央がすぐそばに立っているのがわかる。震えかけた指先を確かめるように、彼は静かに握り返してくれた。

「俺がついてるから大丈夫。全部うまくいくよ」

その自信に満ちた声と表情に、紬はわずかに拍子抜けする。

昔の彼は泣き虫で、手を握ってあげるのはいつも自分のほうだった。それが今では、こうして支えられているのだと思うと、胸の奥に温かさと小さなときめきが同時に灯った。

紬は一瞬だけ視線を落とし、そのまま央の手のぬくもりに身を委ねた。

「……うん。ちょっと緊張してたけど……なっちゃんの顔見たら落ち着いた。一緒に頑張ろうね」

紬が素直に寄りかかると、央の手からふっと力が抜けるのが伝わってきた。ほんの数秒のやり取りだったが、忙しさに埋もれていた気持ちが静かに浮かび上がり、ふたりだけの時間が確かにそこにあった。

やがて開場の時刻となり、扉がゆっくりと開く。優しい照明に包まれた会場へ来場者が足を踏み入れ、犬や猫たちとのふれあいが、穏やかに始まった。
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