Dearest My Lady

会場が本格的に動き始めると、紬はゆっくりと全体を回り始めた。

犬や猫たちの様子、来場者との距離感、そしてインカムから流れてくる連絡。ひとつも聞き漏らさないよう意識を張り詰め、鳴き声に変化があれば、すぐに視線が向いた。

ふれあいスペースでは、譲渡を検討している家族から声をかけられることも多い。

「天城先生、少しご相談してもいいでしょうか」

「はい。もちろんです」

団体スタッフの呼びかけに、紬は腰を落とした。ケージ越しにこちらを窺う保護猫へ静かに視線を向け、その小さな動きを追いながら話に耳を傾ける。

「こちらのご家族が、この子のお迎えを考えてくださっているんですが……家にはすでに猫ちゃんがいるそうなんです」

スタッフはそう説明しながら、そっと家族のほうへ視線を向けた。

「あ、はい……先住の子は比較的穏やかな性格なんですけど……」

女性は言葉を探すように一度間を置き、ケージの中の猫を見つめる。

「この子、少し警戒心が強そうで。新しい環境に連れて行って、ちゃんと落ち着けるのか……怖い思いをさせてしまわないかが心配で……」

そう言って、隣に立つ夫であろう男性と視線を交わす。その迷いを含んだ表情に、紬は小さく頷いた。

「不安に思われるのは当然だと思います。猫同士の相性は確かに大切ですし、最初の関わり方で印象が決まることも多いです」
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