Dearest My Lady
夫婦は静かに紬の言葉に耳を傾ける。その真剣な様子を受け止めながら、紬は声の調子を少しだけ和らげた。
「最初は別々の部屋で、それぞれが安心できる場所を用意してあげてください。匂いを少しずつ交換したり、ドア越しに存在を感じさせるところから始めるといいですよ」
その言葉に重ねるように、スタッフが紬へ視線を向けた。
「もちろん、お迎え後も私たちがフォローします。環境に慣れるまでの相談や、体調や行動の変化についても定期的に様子を確認していきますし、天城先生をはじめかかりつけの動物病院とも情報を共有し、医療面も含めたサポート体制を整えています」
紬は小さく頷き、あらためて家族へ向き直る。
「不安なことや分からないことがあれば、いつでも相談してください。この子と、この子を迎えてくださるご家族のために、私たちが責任をもって支えます」
紬の説明を聞き終えたあと、夫婦はしばらくケージの前で黙り込んでいた。やがて女性が、そっと息を吐く。
「……時間がかかっても、大丈夫なんですよね」
「はい。ゆっくりでいいと思います」
その答えに男性が小さく頷き、夫婦で視線を交わした。
「——決めました。この子を、家族として迎えたいです」
スタッフが静かに頷き、譲渡手続きへと動き出す。その一連の流れを、紬は少し離れた場所から見守っていた。
書類にペンを走らせる手元、何度も猫へ向けられる優しい視線。手続きを終えたあと、そっと抱き上げられた小さな体が、戸惑いながらも人の腕に収まる。