Dearest My Lady
彼は外では常に隙がなく、完璧に整った振る舞いを崩さない人だ。公の場で私情を滲ませるなんて、これまで一度もなかった。
——そう思った瞬間、ふいに視線が重なる。
そのほんの一瞬、央がこちらを見てわずかに口角を上げた。それは取材用の穏やかで隙のない笑顔ではなく、どこか愉しげな、企みが成功したときの表情だった。
(……なっちゃん、まさか……)
そこで、ようやく気づいた。今の発言のすべてが、最初から彼の計算の上にあったのだと。
そう思った途端、遅れて頬に熱が集まった。
(……なっちゃんには、敵わないなあ)
必要な言葉だけを選び、場の空気をさらりと掴んで、いつの間にかすべてを彼の思い通りの形に整えてしまう。
考えてみれば、はじまりの婚約だって同じだった。気づいた頃には逃げ道なんてとうに塞がれていて、包まれるような溺愛の中にいた。
今回もそうだ。紬が何かをしたいと言うより前に、央はもう未来を用意していた。
そして獣医としての力も、真摯な思いも、月城グループにとっての価値も——すべてを真正面から示しきったうえで、誰の目にもはっきりわかるほどの愛情と絆を、迷いなく世間に差し出してくれた。
——なんて策士で、手強い人なんだろう。
長い幼なじみとしての付き合いの中で、こんな腹黒さを見せられたのは初めてかもしれない。けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ——そんなところまで含めて、彼を好きだと思ってしまう自分がいる。
(……もう、どうしようもないなあ)
少し前にようやく自覚した小さな想いは、彼を知るたびに日に日に大きくなっていく。
心の中で降参の言葉をそっと呟きながら、紬は視線を伏せた。頬に残る熱を自覚しつつ、取材の場に背筋を伸ばして立つ央の背中を静かに胸に焼き付けていた。