この恋、解約前提ですので。

理想のサブスク、恋愛のいいとこ取り

都内のおしゃれなダイニングカフェ。

木のテーブルと落ち着いた照明のもと、グラスの氷がコトンと音を立てた。


向かいに座るのは、
佐伯 美咲(さえき みさき)、29歳。

彩の大学時代からの親友でキャリア女子。
華やかな見た目と歯に衣着せぬ物言いで、
恋愛にも仕事にもバリバリなタイプ。
彩とは性格も価値観も違うけれど、不思議とずっと仲がいい。


「で? 今回の相手はどうなのよ。契約彼氏」

メニューをめくりながら、美咲がさらっと切り込んでくる。

「んー……悪くないかな」

彩はサラダをつつきながら答えた。

「悪くないって、また曖昧な」

「ちゃんと会話も合うし、時間も守るし、空気も読める。あと、顔もいい」

「出た、“顔もいい”!」

美咲が笑いながら突っ込むと、彩も少し笑った。

「でもほんと、条件で言えば今までで一番整ってるかも。変な干渉もしないし、何よりもラク♪」

「……なるほど、彩さん好みの“ノーストレス系男子”ってやつね」

「そう。ほんとに、今のところはそれで充分かなって感じ」

彩はグラスを傾けながら、まるで仕事相手の評価を話すかのように淡々と語る。
「こないだ鎌倉行ったの」

「お、デートっぽい」

「まあ、一応はデートだけど。鎌倉で食べ歩きして、ソフトクリーム食べて、帰りはドライブ。普通に楽しかったよ」

「普通に……?」

「うん、普通に。気を遣わずに済むって、貴重じゃん」

「……ふーん。なんかさ、そのうち本気になったりしないの?」

ふいに、美咲がそう言った。

冗談めいた口調で、でも少しだけ目は真剣だった。

「ないない。さすがにそれはないって」

即答だった。彩は軽く笑いながら続ける。

「そもそもそういう関係じゃないし。期間限定って最初から決まってるしね」

美咲は首をかしげる。

「……でも、一緒にいて心地いいって、案外一番危ないやつなんじゃ」

彩は笑って首を横に振った。

「いやいや、“心地いい”と“好き”は違うでしょ。彼は、契約相手として当たりってだけ」

「“本気の恋愛”と違って、期待しすぎないし、何かを背負う必要もない。ただ、恋愛の楽しいとこだけ切り取って味わえるでしょっ」

「なるほどね。恋愛のいいとこ取りか」

美咲が納得したように言う。

「そうそう。今はそれで十分」

彩は笑顔でうなずいた。

「そう。嫉妬とか、価値観のズレとか、悩む時間とかもう疲れる」

言葉に迷いはない。

今の彩は、恋愛に振り回されることを望んでいなかった。

──ただの“契約恋人”で、十分満たされる関係。

恋愛に依存せず、自分のペースで進む、心地よくて合理的な恋。

今の彼は、まさに“理想のサブスク”。

今の彩にとって、怜央は“理想的な契約恋人”にすぎなかった。

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