この恋、解約前提ですので。

本気のデート。“延長”を迷う夜

「着いたよ」

車を降りた怜央の声に、彩はきょとんとした顔で周囲を見渡す。

「え……ここ?」

連れてこられたのは、こぢんまりとした趣のある小料理屋。

外観からは、まさかここが“デート先”だとは思えなかった。

「ここ、いつも来るんだけどさ。仲良しのやつがやってて」

「いや、普通におしゃれなバーとかでよくない?」

不満気に言う彩に、怜央はおどけたように笑う。

「ほら、こういうのも新鮮でしょ」

そう言って店の扉を押し開けた。

「おう!」と入っていく怜央の後を、彩は戸惑いながらもついていく。
「あら〜〜、いらっしゃい! 久しぶりじゃない」

出迎えたのは、濃いピンクのリップと完璧なメイクのオカマ・ローズ。

笑顔のまま、すぐに彩に視線を移す。

「……1人じゃないの? 新しい彼女?」

「そう、綺麗でしょ。俺の彼女だよ」

怜央がニヤッと笑って紹介する。

(……どういう意味?)

ローズはジロジロと彩を見た後、するどく眉をひそめた。

「こちらにどうぞ」

席に案内しながら、2人におしぼりを手渡すローズ。

その視線は、全身をスキャンするように鋭い。

「怜央、アンタ……本当にこの子、彼女?」

「そうだよ。優しくしてあげて」

笑う怜央を無視して、ローズが彩の顔を覗き込む。

「ちょっと……どこいじったの? どこが本物?」

「いじってないですっ!」

必死に否定する彩に、ローズはあっけらかんと笑う。

「あら、最近の技術ってすごいのね〜〜」

「だから天然だってば!」

「ほんとにぃ〜? まあいいわ。それより、何その座り方っ!全然色気ないわよ! 肘つかない! 膝を揃えなさい!
だからモテないのよ。女として産んでもらってるんだから、もっと意識しなさい!」

「……。」

(なにこの人……感じ悪っ。怜央さん、なんでこんなとこ連れてきたの?)

彩が無言で視線を送ると、怜央は肩をすくめて笑っていた。

「まあまあ、そんなにいじめないでよ」

「そういえばこの前、詩ちゃんと美憂ちゃんが来てくれたわよ〜」

「え、あいつらも来たんだ?」

嬉しそうに笑う怜央を、彩はじっと見つめた。

(……怜央さんて、素でこんな風に笑うんだ。初めて見たかも)

その笑顔を見つめながら、彩はふと口を開いた。

「ねえ」

と声をかける。

怜央がグラスを持ったまま顔を向けた。

「ん?」

彩は少し間をおいてから尋ねる。

「さっきの……詩ちゃんと美憂ちゃんって、誰?」

怜央はグラスをテーブルに置き、ゆるく姿勢を崩すと、落ち着いた口調で答えた。

「詩は俺の妹。ちょっと騒がしくて、おしゃべりだけど……まあ、可愛いヤツ」

ふっと思い出し笑いを浮かべる。

「美憂は……幼なじみ。家も近くて、小学校の頃から一緒だった。詩とも仲がいいんだ」

「へえ」

と彩が相づちを打つ。

「ローズのこと、詩も美憂も好きでさ。昔からよく来てる。家族ぐるみっていうか……まあ、そういう場所なんだよ」

「……家族もくる場所」

彩がぽつりと繰り返すと、怜央は小さく頷いた。

「そう。だから彩さんをここに連れてきたのも、俺にとっては……ちょっとだけ“本当のデート”って意味だったのかもな」

不意にそう言われて、彩の手がグラスの縁で止まった。

「ねぇねぇ。で、あんた達はどこで知り合ったの?」

ローズはお通しをだしながら二人に話しかける。

「……秘密のクラブかな〜」

涼しい顔で微笑む怜央に、ローズは身を乗り出してきた。

「なにそれ〜〜! 私も行きたい!!」

勢いよく迫ってきたローズは、他の客に呼ばれ、惜しそうに席を外していった。

怜央が笑いながら彩の方に目を向ける。

「大丈夫? ローズ、ちょっと濃いけど」

「大丈夫も何も……」

「アイツ、誰にでもああなんだよ。悪い人じゃない。てか、さっき美人って言ってたじゃん?」

「褒められた感じは全然しなかったけど」

そう言いながらも、彩の表情は少し緩んでいた。

家族も来るというこの場所に連れてきてくれたことが、なんとなく嬉しかった。

(妹さんも来るってことは……信頼してるんだろうな)

ふと、彩が口を開く。

「ねえ」

「ん?」

「そういえば……更新ボタンって、押したらどうなるんだっけ?」

「は? まさかの……“延長”希望?」

と怜央はからかうように彩の顔を見て言った。

からかわれたことに少しムッとして彩が返す。

「別に。……怜央さんは?」

「さあな」

「契約更新したら、まあ……あと数ヶ月は俺が相手ってことになるな」

怜央は軽く笑って、手元のグラスをくるくると回した。

「ふーん」

彩は少しだけ自分の気持ちが揺れる感じがした。

──“好き”とか、そういうんじゃない。

次を探すのが、少しだけ面倒なだけ。

……たぶん。



***

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