妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
その時だった。北斗の顔が近付いたかと思うと、突然唇を塞がれたのだ。花梨は瞬きを忘れて、息も止まった。唇には北斗の柔らかな唇が触れ、初めてのキスに花梨の頭は真っ白になる。
とても長い時間に思えた。北斗は唇を離し、頬を染めて花梨を見つめる。
「なんで……」
しかしその言葉を遮られるように、再びキスをされてしまう。今度は唇を強く押し付けられ、自分たちがキスをしているのだとはっきりと自覚した。
抵抗をしなかったのか、出来なかったのか──きっと彼に淡い恋心を抱いていたから、抵抗する理由が見つからなかったのだ。
だが次の瞬間、北斗の唇が勢いよく離れた。
「ご、ごめん!」
北斗は顔を真っ赤に染めたまま、部室から飛び出して行ってしまった。残された花梨は、夢見心地のまま、両手で口を押さえた。
今起きたことは現実なのだろうか──窓から差し込む朱い夕焼けと同じ色に頬が染まる。こんなにも身体中が熱くなったのは初めての経験だった。
一息つきながら背もたれに倒れ込み、そっと目を伏せると、先ほどのキスの感触が蘇ってきて恥ずかしくなる。
今まで交際経験のない花梨にとって、今のは紛れもなくファーストキス。まさかこんなふうに経験するなんて思わなかったし、何故このような事態になったのかも頭が追いつかない状況だった。
彼は私に対して、少しでも好意を寄せてくれているのかしら……いやいや、彼みたいな人が私なんかを好きになるはずがない。それなら今のキスを、彼はどんな気持ちでしたのだろう──考えるたびに、彼が自分を好きだったらいいのにというか願望ばかりが大きくなるのに、期待しないように頭を振ってその考えを追い出そうとする。
その時だった。
「先輩、どうしたんですか?」
「つ、都築くん⁉︎ ひゃっ……!」
急に現れた一年生の部員である都築に声をかけられ、バランスを崩した花梨は椅子から落ちて尻もちをついた。
「大丈夫ですか⁉︎」
「うん、大丈夫……っていうか、いつからいたの?」
「今来たところです。すごい勢いで走ってる菱川先輩とすれ違いましたけど、何かあったんですか?」
「えっ⁉︎ いや、何もないよ⁉︎」
「……ならいいんですが」
すると都築は花梨の向かい側の椅子に座ると、カバンからタブレットとノートを取り出した。都築は小学生の頃から小説を書いていて、今はもっぱら長編小説に取り組んでいるらしい。
彼もまた優等生だが、北斗とは逆のタイプで、物静かで他者とはあまり関わらない。サラッとした黒髪の奥には、メガネ越しに鋭い観察眼が光っていた。
とても長い時間に思えた。北斗は唇を離し、頬を染めて花梨を見つめる。
「なんで……」
しかしその言葉を遮られるように、再びキスをされてしまう。今度は唇を強く押し付けられ、自分たちがキスをしているのだとはっきりと自覚した。
抵抗をしなかったのか、出来なかったのか──きっと彼に淡い恋心を抱いていたから、抵抗する理由が見つからなかったのだ。
だが次の瞬間、北斗の唇が勢いよく離れた。
「ご、ごめん!」
北斗は顔を真っ赤に染めたまま、部室から飛び出して行ってしまった。残された花梨は、夢見心地のまま、両手で口を押さえた。
今起きたことは現実なのだろうか──窓から差し込む朱い夕焼けと同じ色に頬が染まる。こんなにも身体中が熱くなったのは初めての経験だった。
一息つきながら背もたれに倒れ込み、そっと目を伏せると、先ほどのキスの感触が蘇ってきて恥ずかしくなる。
今まで交際経験のない花梨にとって、今のは紛れもなくファーストキス。まさかこんなふうに経験するなんて思わなかったし、何故このような事態になったのかも頭が追いつかない状況だった。
彼は私に対して、少しでも好意を寄せてくれているのかしら……いやいや、彼みたいな人が私なんかを好きになるはずがない。それなら今のキスを、彼はどんな気持ちでしたのだろう──考えるたびに、彼が自分を好きだったらいいのにというか願望ばかりが大きくなるのに、期待しないように頭を振ってその考えを追い出そうとする。
その時だった。
「先輩、どうしたんですか?」
「つ、都築くん⁉︎ ひゃっ……!」
急に現れた一年生の部員である都築に声をかけられ、バランスを崩した花梨は椅子から落ちて尻もちをついた。
「大丈夫ですか⁉︎」
「うん、大丈夫……っていうか、いつからいたの?」
「今来たところです。すごい勢いで走ってる菱川先輩とすれ違いましたけど、何かあったんですか?」
「えっ⁉︎ いや、何もないよ⁉︎」
「……ならいいんですが」
すると都築は花梨の向かい側の椅子に座ると、カバンからタブレットとノートを取り出した。都築は小学生の頃から小説を書いていて、今はもっぱら長編小説に取り組んでいるらしい。
彼もまた優等生だが、北斗とは逆のタイプで、物静かで他者とはあまり関わらない。サラッとした黒髪の奥には、メガネ越しに鋭い観察眼が光っていた。