妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *
あの日から北斗に会うのが気まずくなった花梨は、自然と部室から足が遠のいていた。そしてまもなく冬休みに入るという頃、花梨は借りていた本を返そうと部室に向かった。
もし菱川くんがいたらどうしよう──普通に話せるだろうか。あのキスの理由を聞く勇気が出ないまま、つい彼を避けてしまう自分がいる。これでは彼を嫌っていると勘違いをさせてしまいそうだが、逆に彼に何も気持ちもないと言われたら、そちらの方が悲しくなってしまうに違いない。
階段を昇り、部室の方を見た花梨はゴクリと唾を飲み込んだ。ドアが開いているのだろう。部室の中から、夕焼けの朱い影が廊下にまで伸びていた。だが人がいるのかはわからず、ゆっくりと歩みを進めていく。
その時、部室の中からガタンっと何かが倒れるような音がして、本棚が倒れたのではと思った花梨は、思わず部屋の中を覗き込んだ──それが間違いだった。
夕焼け色に包まれた部室の中で、壁際の本棚に寄りかかる北斗と、彼の腕を掴んでキスをしている愛佳の姿が、花梨の瞳に飛び込んできたのだ。
見ていられなかった。叫びそうになるのを両手でグッと押さえて堪えて踵を返すと、勢いよく走り出す。階段を駆け下りた花梨は昇降口で靴を履きかえ、校門までダッシュした。
学校の外に出た途端、気持ちの糸が切れたかのように花梨の目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。
あぁ、そうか……。私きっと菱川くんのことが、少しじゃなくて、すごく好きだったんだ。でも彼はきっと相手は誰でも良かったのかもしれない。私へのキスだって、したくなったからしただけ。深い意味はなかったんだ──カバンからタオルを取り出し、顔面を押さえて嗚咽を堪える。
彼がいたから辛かった日々も乗り越えることができた。でも喜びも温かさも、その全てが目の前で崩れ去っていったのだ。
失恋とは、こんなにも苦しくて辛いものなんだ──初めて知る感情は、堪えきれないほど大きな痛みと傷を与えたのだった。
あの日から北斗に会うのが気まずくなった花梨は、自然と部室から足が遠のいていた。そしてまもなく冬休みに入るという頃、花梨は借りていた本を返そうと部室に向かった。
もし菱川くんがいたらどうしよう──普通に話せるだろうか。あのキスの理由を聞く勇気が出ないまま、つい彼を避けてしまう自分がいる。これでは彼を嫌っていると勘違いをさせてしまいそうだが、逆に彼に何も気持ちもないと言われたら、そちらの方が悲しくなってしまうに違いない。
階段を昇り、部室の方を見た花梨はゴクリと唾を飲み込んだ。ドアが開いているのだろう。部室の中から、夕焼けの朱い影が廊下にまで伸びていた。だが人がいるのかはわからず、ゆっくりと歩みを進めていく。
その時、部室の中からガタンっと何かが倒れるような音がして、本棚が倒れたのではと思った花梨は、思わず部屋の中を覗き込んだ──それが間違いだった。
夕焼け色に包まれた部室の中で、壁際の本棚に寄りかかる北斗と、彼の腕を掴んでキスをしている愛佳の姿が、花梨の瞳に飛び込んできたのだ。
見ていられなかった。叫びそうになるのを両手でグッと押さえて堪えて踵を返すと、勢いよく走り出す。階段を駆け下りた花梨は昇降口で靴を履きかえ、校門までダッシュした。
学校の外に出た途端、気持ちの糸が切れたかのように花梨の目から大粒の涙がこぼれ落ちていく。
あぁ、そうか……。私きっと菱川くんのことが、少しじゃなくて、すごく好きだったんだ。でも彼はきっと相手は誰でも良かったのかもしれない。私へのキスだって、したくなったからしただけ。深い意味はなかったんだ──カバンからタオルを取り出し、顔面を押さえて嗚咽を堪える。
彼がいたから辛かった日々も乗り越えることができた。でも喜びも温かさも、その全てが目の前で崩れ去っていったのだ。
失恋とは、こんなにも苦しくて辛いものなんだ──初めて知る感情は、堪えきれないほど大きな痛みと傷を与えたのだった。