妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *
高校三年の三学期は学校はほぼないようなもので、合格して進学先が決まるまでは、登校することはほぼなかった。
花梨は失恋の痛みを抱えながらも無事に合格をもらい、再び登校を始めた。残り少ない日々、少しでも友だちと思い出を残すつもりでいたのに、気になるのは北斗のことばかりだった。
職員室の前に三年生たちが合格した大学と学部が貼り出されていて、北斗も無事に医学部に合格したことを知る。国立を目指しているという噂を耳にしたので、もしかしたら卒業式まで登校はしてこないかもしれない。
複雑な想いのまま、花梨の足は部室に向かっていた。良い思い出も苦しい思い出も、全てが詰まった場所。あの切ない記憶を思い出したくなくて、つい足が遠のいてしまっていたが、夢に向かう頑張った大切な場所に変わりはない。
部室に足を踏み入れた花梨は、驚いたように目を見開いた。
「及川先生!」
部室の中には、歴代の部誌が並ぶ本棚の前に立つ及川先生がいたのだ。
「あぁ、山之内さん。お久しぶりです。合格おめでとうございます。今日から登校だったんですね」
「ありがとうございます。というか、どうなさったんですか?」
「いえ……私ももうすぐこの場所ともお別れなので、少し寂しくなってしまいましてね」
彼が文芸部の顧問になったのは二十年も前のことらしい。及川先生と、たくさんの生徒たちが共に過ごしたこの場所で、多くの物語が紡がれてきた。しかし来年も文芸部の部室として存続するのかはわからない。廃部になってしまう可能性も否定出来ないのだ。
「私もすごく寂しいです……」
すると及川先生は花梨をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「山之内さん、私はね、言葉にはすごい力があると思っています。それは口にするもの、目にするもの、耳にするもの、いろいろな種類があって、そしてその言葉で人々は想像力や想いを膨らませる。すると人によって想い描く世界は様々で、答えは決して一つではなく、たくさんの正解が生まれていくんです。だけどそれとともに多くの誤解も生んでいく」
「誤解……ですか?」
何故かその言葉が胸に突き刺さり、花梨は両手の拳をギュッと握りしめた。
高校三年の三学期は学校はほぼないようなもので、合格して進学先が決まるまでは、登校することはほぼなかった。
花梨は失恋の痛みを抱えながらも無事に合格をもらい、再び登校を始めた。残り少ない日々、少しでも友だちと思い出を残すつもりでいたのに、気になるのは北斗のことばかりだった。
職員室の前に三年生たちが合格した大学と学部が貼り出されていて、北斗も無事に医学部に合格したことを知る。国立を目指しているという噂を耳にしたので、もしかしたら卒業式まで登校はしてこないかもしれない。
複雑な想いのまま、花梨の足は部室に向かっていた。良い思い出も苦しい思い出も、全てが詰まった場所。あの切ない記憶を思い出したくなくて、つい足が遠のいてしまっていたが、夢に向かう頑張った大切な場所に変わりはない。
部室に足を踏み入れた花梨は、驚いたように目を見開いた。
「及川先生!」
部室の中には、歴代の部誌が並ぶ本棚の前に立つ及川先生がいたのだ。
「あぁ、山之内さん。お久しぶりです。合格おめでとうございます。今日から登校だったんですね」
「ありがとうございます。というか、どうなさったんですか?」
「いえ……私ももうすぐこの場所ともお別れなので、少し寂しくなってしまいましてね」
彼が文芸部の顧問になったのは二十年も前のことらしい。及川先生と、たくさんの生徒たちが共に過ごしたこの場所で、多くの物語が紡がれてきた。しかし来年も文芸部の部室として存続するのかはわからない。廃部になってしまう可能性も否定出来ないのだ。
「私もすごく寂しいです……」
すると及川先生は花梨をじっと見つめ、優しく微笑んだ。
「山之内さん、私はね、言葉にはすごい力があると思っています。それは口にするもの、目にするもの、耳にするもの、いろいろな種類があって、そしてその言葉で人々は想像力や想いを膨らませる。すると人によって想い描く世界は様々で、答えは決して一つではなく、たくさんの正解が生まれていくんです。だけどそれとともに多くの誤解も生んでいく」
「誤解……ですか?」
何故かその言葉が胸に突き刺さり、花梨は両手の拳をギュッと握りしめた。