妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
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 第一総合病院側が提示したのは土曜日の午後で、お見舞いに来ている保護者の方にも一緒に楽しんでもらいたいとの意向があってのものだった。花梨自身もその日はたまたま休みをとっていたため、日程はすぐに決まった。

 絵本作家として紹介されるのはまだどこかくすぐったい気もしていたが、誰かが自分の本を手に取り好きになってもらえることで、花梨は自信をもらえた。そして応援してくれる人たちへ自分で作品を届けることができるのは、何よりの幸せだと感じていた。

 読み聞かせの会の当日、花梨はグレーのフレアのロングスカートと、薄い水色のリボンタイのついたブラウスを着用し、髪はいつものように編み込みをしてふんわりとまとめ、子どもたちが絵本に集中出来るよう心がけた。

 一人暮らしをしている自宅マンションを出てから、第一総合病院までは電車で十五分ほどで、意外と近居場所にある。花梨は絵本を入れた大きめのバッグを肩から掛け、電車に乗り込んだ。

 これから向かう第一総合病院は、母親がずっと耳鼻咽喉科にお世話になっていることもあって、いろいろと縁もあった。今は薬を飲み、毎日指示された体操を欠かさずにやることで、入院をすることはなくなった。でも今でも高校生の時のことを思い出すと、辛かった記憶が蘇ってくる。

 そしてそれとともに思い出されるのが、北斗と一緒に過ごした日々のことだった。時々部室で一緒になると、読んだ本の話をしたり、他愛もない話で笑い合った時間のこと。初めてキスをした時のこと──別の女子とのキス現場を見てしまった時のこと。胸が躍ることも、心が壊れそうになることも、あの日々に経験をした。

 ありがたいことに、早いうちに絵本作家としての道がひらけたこともあり、学芸員としての仕事もしながら忙しい毎日を送る中で落ち込んでいる時間は少なかった。そのおかげで今は充実した日々を過ごせているのだ。
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