妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *

 駅を降りて十分ほど歩くと、第一総合病院の表玄関が現れた。タクシーを待つ列の横を通り過ぎ、たくさんの人がいるロビーを眺めてから受付へと向かう。

 土曜日ということもあり、平日の混雑に比べれば幾分かは穏やかに感じる。きっと入院患者のお見舞いに訪れている人に違いない。

 この病院が建てられてから十五年ほど。建設には反対意見もあったと聞くが、元々大きな病院がなかったこの地区で、遠くまで行かずとも診察や健診が受けられるとあって、今では街になくてはならない存在となっている。

 母親が入院した時も、学校帰りにお見舞いに行くのにとても便利だったことを思い出した。

 あれから何年も経つのに、今もとてもきれい……病院ってこんなものなのかしら──そう思いながら受付に向かう。名前を伝えると、エレベーターで五階の小児病棟に行くように言われたので、花梨は小児科の前を通り過ぎてホールまで足早に進むと、到着したエレベーターに乗り込んだ。

 五階のフロアに降り、小児科病棟と書かれた矢印に沿って廊下を歩き始める。真っ白な壁と床が照明の光を反射し、やけに明るく見えた。

 自動ドアの前で立ち止まったが、開く気配がなく、困惑した様子で立っていると、
「面会の方ですか?」
と背後から声をかけられた。

 驚いて振り返ると、ピンク色のナース服を着た二十代半ばくらいの女性が花梨を見つめている。花梨は慌てて入館証を見せ、頭を下げた。

「あっ、今日こちらで絵本の読み聞かせをさせていただく予定の山之内花梨です。こちらに行くよう受付の方で言われたのですが、ドアが開かなくて……」

 すると看護師の表情がパッと明るくなった。

「あぁ、山之内先生でしたか! 今日はよろしくお願いします。あっ、ここに面会カードをかざすとドアが開くんです」

 看護師が壁際にあるセンサーに自分の名札を当ててみせると、扉がすぐに開いた。

「なるほど。そうだったんですね。ありがとうございます」
「いえいえ! きっと説明を忘れてしまったんですね。こちらこそすみません」

 ドアを抜け、看護師は花梨をナースセンターへと案内する。

「事前の打ち合わせがあると聞いているのですが……」
「今日の流れの説明ですよね。今担当の看護師を呼んできますので、あちらの談話室でお待ちいただいてもいいですか?」

 看護師が指差した先には、透明なガラス戸で仕切られた部屋があり、中にはテーブルと椅子が置かれた席がいくつか見える。

「わかりました」
「ではすぐに戻りますので、しばらくお待ちください」

 花梨は頷くと、談話室に向かって歩き出す。広々とした談話室だったが、中には誰もおらず、静かな空気が流れていた。きっと家族は患者である子どもに付き添っているのだろう。

 窓際の一番奥の席に座ると、花梨は椅子に荷物を置き、自身もその隣に腰を下ろした。ほうっと息を吐いた瞬間、
「お待たせさました」
とドアの方から女性の声が聞こえた。
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