妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *

 会場は小児病棟のプレイルームだった。マットが敷かれた床に子どもたちは座り、後方に親たちも腰を下ろす。そしてその様子を見守るように数名の看護師の姿も見えたが、医師らしき人は見当たらなかったため、花梨をここに呼んでくれた人物はまだ到着していないことが窺える。

 プレイルーム内の様子を眺め、花梨は大きく息を吐いた。極度の緊張を感じて体が全く動かなくなっていたのだ。子どもだけでも二十人ほど、親も入れれば相当な人数になる。

 子どもたちが花梨のことを指差して、楽しそうにお喋りをしている。中には自分がいた絵本を手に持っている子もおり、嬉しくて緊張が少しずつ解けていくのを感じた。

 今も打ち続ける心臓を右手でギュッと握り、大きく深呼吸をする。その時、隣に立っていた白井が時計の時間を確認して花梨に微笑みかけた。

「じゃあそろそろ時間なので始めますね」
「はい、よろしくお願いします」

 白井は頷くと子どもたちの前に立ち、今日の流れについて説明を始める。聞く時はどうやったらいいのかと質疑応答を繰り返す様子は、子供との関わり方を熟知しているように思えた。

「では山之内先生、よろしくお願いします」
「は、はいっ」

 花梨は絵本を持って勢いよく立ち上がると、子どもたちの正面に置かれた椅子に向かってゆっくり呼吸を整えながら歩いていく。そして再び深呼吸をしながら椅子の隣に立つと、お辞儀をしてから椅子に座った。

 顔を上げてみれば、子どもたちが興味津々という顔でこちらを見ていたので、なんだか照れてしまう。
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