妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「そういえば、今朝緊急の手術があったって聞いたけど……」
「あぁ、そうなんだ。五歳の男の子がさ、椅子から飛び降りて着地に失敗したらしくて、左肘のところを骨折しちゃったんだ」
北斗は自分の肘を出して人差し指で突いてみせた。
「えっ、骨折で手術をするの?」
「骨折にもいろいろな種類があるからね。今回は上腕顆上骨折って言って、子どもは多いんだよね。くっつく時に位置がずれないようにするために、骨をピンで固定するんだ」
「そのピンは入れたままなの?」
「いや、きちんとくっついたのを確認してからまた手術をして抜くんだ。保護者は二回も手術と入院だから大変だけどね」
自分の知らない世界がまだまだたくさんあることに、改めて気付かされた。
「菱川くん……ちゃんとお医者さんなのね」
「あはは。ついこの間までは研修医だったけど、ようやく独り立ちかな。とはいえ、まだまだ新米医師だけど」
こんなふうにまた話せる日が来るなんて──まるで文芸部の部室のような空気が漂う。それが心に安心感をもたらした。
すると北斗が窓の外に目をやり、そっと目を細めた。
「きれいな夕陽だな……。文芸部の部室を思い出さないか?」
その言葉が花梨の心に突き刺さる。部室の夕陽はとてもきれいだった──それと同時に、嬉しい記憶と辛い記憶の両方を引き出すものでもあったのだ。
「私は……夕陽を見ると胸が苦しくなるの。いろいろな思い出があるけど……直視するのが辛いことの方が多いかもしれない。菱川くんにとって、夕陽にはどんな意味があるの?」
二人の目が合い、静かな沈黙が流れる。それから北斗は真剣な表情で、テーブルの上に置かれた花梨の手を握った。
「妖精が通り過ぎたかな」
「それって……」
「俺にとっては、好きな人への気持ちが抑えられなくなって、自分からキスをしたってことが一番かな」
好きな人が誰を指しているのか、本当は心の片隅では察していた。それでも再び傷付くのが怖くて認めることが出来ない。
「我慢出来なくて、二度目のキスもして……それから避けられるようになったけど」
彼の手から逃れようとして手を引いたが、北斗の力が強くてそれが出来なかった。
「あぁ、そうなんだ。五歳の男の子がさ、椅子から飛び降りて着地に失敗したらしくて、左肘のところを骨折しちゃったんだ」
北斗は自分の肘を出して人差し指で突いてみせた。
「えっ、骨折で手術をするの?」
「骨折にもいろいろな種類があるからね。今回は上腕顆上骨折って言って、子どもは多いんだよね。くっつく時に位置がずれないようにするために、骨をピンで固定するんだ」
「そのピンは入れたままなの?」
「いや、きちんとくっついたのを確認してからまた手術をして抜くんだ。保護者は二回も手術と入院だから大変だけどね」
自分の知らない世界がまだまだたくさんあることに、改めて気付かされた。
「菱川くん……ちゃんとお医者さんなのね」
「あはは。ついこの間までは研修医だったけど、ようやく独り立ちかな。とはいえ、まだまだ新米医師だけど」
こんなふうにまた話せる日が来るなんて──まるで文芸部の部室のような空気が漂う。それが心に安心感をもたらした。
すると北斗が窓の外に目をやり、そっと目を細めた。
「きれいな夕陽だな……。文芸部の部室を思い出さないか?」
その言葉が花梨の心に突き刺さる。部室の夕陽はとてもきれいだった──それと同時に、嬉しい記憶と辛い記憶の両方を引き出すものでもあったのだ。
「私は……夕陽を見ると胸が苦しくなるの。いろいろな思い出があるけど……直視するのが辛いことの方が多いかもしれない。菱川くんにとって、夕陽にはどんな意味があるの?」
二人の目が合い、静かな沈黙が流れる。それから北斗は真剣な表情で、テーブルの上に置かれた花梨の手を握った。
「妖精が通り過ぎたかな」
「それって……」
「俺にとっては、好きな人への気持ちが抑えられなくなって、自分からキスをしたってことが一番かな」
好きな人が誰を指しているのか、本当は心の片隅では察していた。それでも再び傷付くのが怖くて認めることが出来ない。
「我慢出来なくて、二度目のキスもして……それから避けられるようになったけど」
彼の手から逃れようとして手を引いたが、北斗の力が強くてそれが出来なかった。