妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「俺のこと、忘れるなんて出来なかった?」
「……」
「それくらい俺のことを想ってくれていた?」

 ここで素直に頷ければ気持ちも楽になるのかもしれないのに──それが出来ない自分が嫌になる。

 その時、頭に先ほどの愛佳との一幕が思い出され、途端に心が沈んでいく。どうせこの会話から解放してもらうには、彼が何かしらの答えを見つけるしかない。この際だから、自分の中で燻っていた疑問だって聞いてしまえばいい

「さっきのって……原田さんだよね。どうして彼女が病院にいたの……?」

 しかも話の流れからして、彼女が病院に勤めているのは間違いないだろう。花梨は北斗の目をじっと見つめたが、彼は何故か嬉しそうに微笑んだ。

「良かった。山之内さんがようやく心の内側を見せてくれた」
「別にそんなつもりじゃ……!」
「いいよ、そんなつもりじゃなくても。俺は山之内さんの心が読めるわけじゃないから、何が心に引っ掛かっているかがわからないんだ。だから……なんでも聞いて欲しい。俺はきちんと誤解を解いて、山之内さんに近付きたいって思っているから」
「誤解じゃないなんて、わからないじゃない……」
「そうだね。だから信用してもらうために、誠心誠意向き合うって決めてるんだ」
「……私、そこまでしてもらうほどの人間じゃないよ……」
「それは山之内さんが決めることじゃない。俺が決めることだよ」
「話すうちに、私のことが嫌になるかもしれない……」
「それはお互い様。だから嘘はつかずに話し合って、まずは誤解を解こう。その後にどうなるかは、神様のみ知ることなんじゃないかな」

 彼はあの頃も今も、真っ直ぐなままなんだ──もしかしたら、これは私に与えられた真実を知るための最後のチャンスなのかもしれない。

「絶対に嘘はつかない……?」
「つかないよ。その代わり山之内さんも、意地を張ったり決めつけたりせずに、素直に答えて欲しい」
「……わかった。約束ね」

 彼の言葉を信じて、私も素直になってみよう──花梨は頷くと、北斗の瞳を真っ直ぐに見つめた。
< 42 / 84 >

この作品をシェア

pagetop