妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「ありがとう。じゃあまずは今の質問から答えるよ。原田が病院にいたのは、彼女がうちの病院で働いている看護師だから。オペ室ナースだから、外科とは接点も多いけど、それだけのことだよ」
「でも……彼女との関係は今に始まったことじゃないよね──キスしていたのも彼女でしょ?」
「そう、同意なしでね。というか、この際だからはっきり言っておくよ。あの病院は俺の父が院長を務めていて、原田の父親はうちの顧問弁護士なんだ。昔から父親同士は仲が良くて、だから顧問弁護士も頼んだって言ってた。原田が必要以上に馴れ馴れしいのは、それが理由なんだ」

 自分が見ていた世界の狭さを知って、花梨は気まずそうに俯く。つい自分の知る世界だけで判断してしまうのは悪い癖だった。

 彼には彼の理由があったのはわかっていた。でもそれは花梨が考えるよりもはるかに大きなもので、やはり聞いてしまうと罪悪感に苛まれていくような気がした。

「……原田さんと付き合ったりはしてないの……?」
「ないね。だって好きじゃないし。でも親たちは何かにつけて俺たちをくっつけようとしていた雰囲気があって、否定するのも面倒で放置していたらあんなことが起きて、取り返しのつかない事態になってしまった。だから親たちには『俺と原田が付き合うことはない』ってきっぱりと否定したんだ」

 北斗の手の力が強まり、花梨はさらに身動きがとれなくなる。

「そのことで原田を傷つけたんじゃないかと勝手に思った俺の父親が、看護学校卒業後にうちの病院勤務を希望していた彼女を採用してさ。だから俺と原田の間にはないから──むしろ傷つけられたのは俺たちの方だよな。原田の勝手な行動のせいで、もっとたくさん話せたかもしれない貴重な時間を奪われたんだから……」

 話を聞いているうちに、心がズキンと痛み出した。確かに原因は彼女にある。それでもことを大きくしてしまったのは自分だという考えが否めなかった。

「……そうかもしれないけど、私には怒らないの? 菱川くんの話を聞かずに勝手に誤解して、あなたのことを(けな)してしまったのに──」
「あんな場面を見たら、そう思うのが普通じゃないかな。特に山之内さんは……擦れていないというか、すごく純粋で真っ直ぐな人だからね」
「それってどういう意味? 現実を知らなさ過ぎってこと?」

 不安になって北斗に詰め寄ると、彼はキョトンとした顔で花梨を見てから、突然笑い始めた。
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