妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「そろそろ返事が聞きたいな」

 もし彼と付き合ったら、こんなドキドキや緊張と隣り合わせの日々を過ごすのだろうか──いつもの花梨なら逃げ出した方が楽だと考えたに違いない。

 本当に彼を好きになってもいいの? 恋人になってもいいの? もう我慢しなくてもいいの? それってすごく贅沢だよ──ずっとしまい続けた気持ちに素直になりたいと思う自分がいた。

「……無理だって思ったら、すぐに言ってね」
「それはお互い様だよ。それじゃあ花梨は今から俺の恋人、きちんと名前で呼ぶように」
「えっ、いきなりハードルが高いよ! 私、付き合うとか初めてだし……」
「大丈夫。花梨は花梨のままでいてくれればいいんだから」

 彼の笑顔は、どうしてこんなにも安心出来るのだろう──花梨は恥ずかしそうに頬を緩めた。

「ありがとう……それから、これからよろしくね、北斗くん」
「こちらこそ」

 友だちでいた期間が長いわけではない。むしろ忘れたいと思っていた期間の方が長い。それがこんなに簡単に変わってしまっていいのだろうか──。

 恋人になって何がどう変わるのか、恋愛経験のない花梨には想像が出来なかった。それでもこれからの日々に胸が高鳴る。

「じゃあそろそろ帰ろうか」

 花梨が頷くと、二人は立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。その時だった。突然背後から体を力強く抱きしめられたのだ。

 驚きと緊張で体が硬直し、心臓は早鐘のように打ち付け、ドキドキがとまらなくなる。

「やっと花梨を捕まえた」
「あの、北斗くん……?」
「安心して。今日はこれ以上はしないから。もう花梨に逃げられるのはごめんだからね。」

 その言葉にホッとしつつも、彼が言おうとしている意図の全てを理解出来ず、花梨はあたふたしてしまう。首元に北斗がクスクスと笑う息がかかり、体の芯が熱くなるのを感じた。
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