妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *
花梨は小説を書くことが好きだった。だけど人前で書く勇気はなく、アイデアが降りてくると部室に駆け込み、創作ノートに急いで書き込むということを繰り返していた。
ある日の昼休み、花梨が慌てて部室に駆け込むと、椅子に座って本を読んでいる北斗がいた。その姿を目にした瞬間、花梨の時間が止まったように辺りが静かになった。まるで額に入った美しい写真を見ているような感覚。光の当たり方、輝く髪の毛──ごくりと息を飲み、呼吸そのものを忘れてしまう。
すると花梨の存在に気付いた北斗がゆっくりと振り返った。
「あれ、山之内さん?」
その言葉でハッと我に返った花梨は、持っていたノートを机の上に開いて置くと、消えかけた文章を再び呼び起こすように文章を勢いよく書き始めた。そして全てを書き切った途端、机に突っ伏した。
「はぁ……間に合った……」
「間に合ったって、何が?」
自分の顔を覗き込んできた北斗の端正な顔を目の前にして、男子とここまで近寄った経験のない花梨は、驚いたように後ろに飛び退く。
しかしその途端、座っていた椅子がバランスを崩して倒れそうになった。
「危ない!」
思わずギュッと目を閉じた花梨だったが、体は倒れることなく元の位置に戻っていく。恐る恐る目を開けると、花梨が倒れないように椅子の背を支える北斗が、安堵の表情を浮かべていた。
「あ、ありがとう……ございます」
「突然声をかけた俺も悪いけど、もう少し気をつけなよ」
「……ごめんなさい……というか、そうだよね、菱川くんが入部してくれたんだよね」
「まぁ幽霊部員みたいなものだから、忘れていても仕方ないか。それで? 今書いていたのは小説?」
北斗がノートを指差したことに気付き、慌ててノートを閉じた。
「教室で書いたりしないの?」
そう言われて花梨は苦笑した。
「あまり人に見られたくなくて……ここなら自由に書けるから」
「あぁ、なんかわかるよ、その気持ち。俺も似たようなものだから」
「似てる? もしかして、ここで本を読む理由?」
すると北斗は苦笑しながら頷いた。
「俺、昔から本を読むのが好きでさ。勉強の息抜きにもなるし、現実では経験出来ないことを擬似体験出来たりもするし。でも、中には図書館で本を読むことをよく言わない奴もいるんだ」
「えっ……どうして? 図書館は本を読む場所じゃないの?」
北斗はクスクス笑いながら、読んでいた本を閉じた。
花梨は小説を書くことが好きだった。だけど人前で書く勇気はなく、アイデアが降りてくると部室に駆け込み、創作ノートに急いで書き込むということを繰り返していた。
ある日の昼休み、花梨が慌てて部室に駆け込むと、椅子に座って本を読んでいる北斗がいた。その姿を目にした瞬間、花梨の時間が止まったように辺りが静かになった。まるで額に入った美しい写真を見ているような感覚。光の当たり方、輝く髪の毛──ごくりと息を飲み、呼吸そのものを忘れてしまう。
すると花梨の存在に気付いた北斗がゆっくりと振り返った。
「あれ、山之内さん?」
その言葉でハッと我に返った花梨は、持っていたノートを机の上に開いて置くと、消えかけた文章を再び呼び起こすように文章を勢いよく書き始めた。そして全てを書き切った途端、机に突っ伏した。
「はぁ……間に合った……」
「間に合ったって、何が?」
自分の顔を覗き込んできた北斗の端正な顔を目の前にして、男子とここまで近寄った経験のない花梨は、驚いたように後ろに飛び退く。
しかしその途端、座っていた椅子がバランスを崩して倒れそうになった。
「危ない!」
思わずギュッと目を閉じた花梨だったが、体は倒れることなく元の位置に戻っていく。恐る恐る目を開けると、花梨が倒れないように椅子の背を支える北斗が、安堵の表情を浮かべていた。
「あ、ありがとう……ございます」
「突然声をかけた俺も悪いけど、もう少し気をつけなよ」
「……ごめんなさい……というか、そうだよね、菱川くんが入部してくれたんだよね」
「まぁ幽霊部員みたいなものだから、忘れていても仕方ないか。それで? 今書いていたのは小説?」
北斗がノートを指差したことに気付き、慌ててノートを閉じた。
「教室で書いたりしないの?」
そう言われて花梨は苦笑した。
「あまり人に見られたくなくて……ここなら自由に書けるから」
「あぁ、なんかわかるよ、その気持ち。俺も似たようなものだから」
「似てる? もしかして、ここで本を読む理由?」
すると北斗は苦笑しながら頷いた。
「俺、昔から本を読むのが好きでさ。勉強の息抜きにもなるし、現実では経験出来ないことを擬似体験出来たりもするし。でも、中には図書館で本を読むことをよく言わない奴もいるんだ」
「えっ……どうして? 図書館は本を読む場所じゃないの?」
北斗はクスクス笑いながら、読んでいた本を閉じた。