妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「そこで何をするかは、人それぞれだよな。価値観だったり、生活環境だったり。きっと山之内さんの周りには本が好きな人が多いんじゃないかな。俺の周りは、勉強のために本を読むような人間ばかりなんだ。だから図書館で本を読んでいたら『本を読む暇があるくらい余裕なんだ』って嫌味を言われる」
「そんな……」
「俺には俺のペースがあるし、勉強への取り組み方だって違う。でもそうやって言われるのが一回じゃなくてさ、正直イライラしてた。そうしたら及川先生が声をかけてくれたんだ」
及川先生は静かに生徒を観察していて、困っている人には優しく手を差し伸べてくれる。花梨も経験があったからわかる。
「私も……元々文芸部だったんだけど、なかなかクラスに馴染めずにいたら、及川先生が声をかけてくれたの。『部室はいつでも好きに使っていいんですよ』って」
「あはは! 俺も似たような感じ。『好きな時に来て本を読んでくれていいんですよ』って」
二人のその会話を想像し、花梨はクスッと笑った。
「なんか及川先生らしいね……」
「クラスに馴染めなかったのって、一年生の時?」
「あー……うん、そうなの。でも今は大丈夫だよ」
「それなら良かった」
花梨の胸がとくんと小さく鳴った。きちんと話をしたのは一ヶ月前。これで話すのは二回目。だけどこうして自分のことを気にかけてくれた北斗を、もう少し知りたいと思い始めていた。
今までは遠くにいたはずの人を、今はこんなに近くに感じている。
「菱川くんは、どんな本が好きなの?」
「俺? いろいろ読むけど、どれかと言われればミステリーものが多いかなぁ。山之内さんは?」
「私もミステリーは好き。あとは時代物とかもよく読むよ」
その時、学校内にチャイムの音が響き渡り、二人の会話も中断した。音が終わるのを待ち、花梨と北斗は顔を見合わせる。
もう少し話したかった──花梨は心の片隅でそう思ったが、彼が同じ思いとは限らない。花梨は口をギュッと閉ざした。
「あーあ、残念。もう少し話したかったのに」
その言葉を聞いた花梨は、驚いたように目を見開く。
「わ、私もそう思ってた!」
「じゃあ続きはまた今度。山之内さんのおすすめの本とか教えてよ。俺も何か考えておくから」
「うん、わかった」
北斗はそう言うと立ち上がる。
「そろそろ戻ろうか」
「あっ、私及川先生の本を借りようと思っていたの。だから先に戻ってていいよ」
「そっか。じゃあまた」
「うん、また……」
手を振る彼の背中を見送りながら、花梨も恥ずかしそうに小さく手を振る。
本当は本を借りる予定なんてなかった。でもなかなか収まらないドキドキを彼に悟られたくなくて、嘘をついてしまった。
「あぁどうしよう……菱川くんってあんなにカッコよかったんだ……」
熱くなる頬を両手で押さえながら、想いを吐き出すように呟いた。
「そんな……」
「俺には俺のペースがあるし、勉強への取り組み方だって違う。でもそうやって言われるのが一回じゃなくてさ、正直イライラしてた。そうしたら及川先生が声をかけてくれたんだ」
及川先生は静かに生徒を観察していて、困っている人には優しく手を差し伸べてくれる。花梨も経験があったからわかる。
「私も……元々文芸部だったんだけど、なかなかクラスに馴染めずにいたら、及川先生が声をかけてくれたの。『部室はいつでも好きに使っていいんですよ』って」
「あはは! 俺も似たような感じ。『好きな時に来て本を読んでくれていいんですよ』って」
二人のその会話を想像し、花梨はクスッと笑った。
「なんか及川先生らしいね……」
「クラスに馴染めなかったのって、一年生の時?」
「あー……うん、そうなの。でも今は大丈夫だよ」
「それなら良かった」
花梨の胸がとくんと小さく鳴った。きちんと話をしたのは一ヶ月前。これで話すのは二回目。だけどこうして自分のことを気にかけてくれた北斗を、もう少し知りたいと思い始めていた。
今までは遠くにいたはずの人を、今はこんなに近くに感じている。
「菱川くんは、どんな本が好きなの?」
「俺? いろいろ読むけど、どれかと言われればミステリーものが多いかなぁ。山之内さんは?」
「私もミステリーは好き。あとは時代物とかもよく読むよ」
その時、学校内にチャイムの音が響き渡り、二人の会話も中断した。音が終わるのを待ち、花梨と北斗は顔を見合わせる。
もう少し話したかった──花梨は心の片隅でそう思ったが、彼が同じ思いとは限らない。花梨は口をギュッと閉ざした。
「あーあ、残念。もう少し話したかったのに」
その言葉を聞いた花梨は、驚いたように目を見開く。
「わ、私もそう思ってた!」
「じゃあ続きはまた今度。山之内さんのおすすめの本とか教えてよ。俺も何か考えておくから」
「うん、わかった」
北斗はそう言うと立ち上がる。
「そろそろ戻ろうか」
「あっ、私及川先生の本を借りようと思っていたの。だから先に戻ってていいよ」
「そっか。じゃあまた」
「うん、また……」
手を振る彼の背中を見送りながら、花梨も恥ずかしそうに小さく手を振る。
本当は本を借りる予定なんてなかった。でもなかなか収まらないドキドキを彼に悟られたくなくて、嘘をついてしまった。
「あぁどうしよう……菱川くんってあんなにカッコよかったんだ……」
熱くなる頬を両手で押さえながら、想いを吐き出すように呟いた。