妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
 店に入った二人は、背もたれのついたソファとテーブルが並ぶカフェスペースに入り、席を確保してから奥にある受付カウンターに向かう。

「何にする?」
「そうだなぁ……私はレモンスカッシュにしようかな」
「おっ、いいね。ケーキとかはいらない?」
「まだカレーがお腹のなかで存在感を示してるの」
「なるほど。じゃあ俺もわんぱくしちゃおうかな。よし、クリームソーダにしよう」

 北斗とクリームソーダのイメージが湧かなかった花梨は、驚いたように目を見開いてから笑いが止まらなくなる。

「なんかちょっと意外だった」
「あっ、笑ったな。でもギャップがある男の方が魅力的じゃない?」
「あはは! 確かに素敵だと思う」
「だろ?」

 トレーに載ったレモンスカッシュとクリームソーダを北斗が運び、二人はソファに腰を下ろした。

「そういえば、北斗くんって絵本に詳しいの? 私の絵本を見つけてくれたってことは、絵本コーナーにも足を運んでいるってことでしょ?」

 すると北斗は時が止まったように微動だにしなくなる。何かを考えているのか、円を描きながら目が揺れ、ピタリと止まったかと思うと、花梨に向かって微笑んだ。

「病院で入院している子たちに、いい絵本はないかって時々探しに行くんだ。その時に花梨の名前が書いてある絵本を見つけてさ、もしかしてって思って」
「そっか……なんか嬉しいかも。ありがとう……」

 北斗の様子に違和感をおぼえつつも、たったそれだけのことで気づいてもらえたことが、花梨の心を温かくしていく。

「北斗くんが好きな絵本、知りたいな」
「それはもちろん花梨の絵本」
「もうっ……照れるからやめて。そうじゃなくて、私の絵本以外では?」
「そうだなぁ……ばったくんシリーズとかも好きかな」
「えっ、本当? 私、ばったくんの作者の先生の美術館で働いているの」

 花梨の顔がパッと明るくなると、北斗は驚くわけもなく、ただ満足げに笑っている。それを見た花梨は再び既視感を覚えた。
< 55 / 84 >

この作品をシェア

pagetop