妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
 花梨は上目遣いで北斗を見ると、意を決して口を開く。

「あのね……一つ聞いていい?」
「もちろん」
「あの……もし勘違いだったらはっきり言ってくれていいの。さっきの本屋で……キスしようとした?」

 すると北斗は目が泳いだ後、頬を染めて下を向いた。

「バレてないと思ったんだけどな」

 自分の勘違いではなかったことに安心しつつも、始まったばかりとはいえ今は恋人同士。しなかった理由を知りたいと思った。

「……どうしてキスしなかったの?」
「どうしてって……ちゃんと花梨の気持ちを大事にしたかったんだ。半ば強引に付き合わせたような感じだったからさ。それに……」

 北斗の手が花梨の髪をそっと撫でる。その瞬間、まるで髪にまで神経が通っているかのように体中が熱くなって、全身が震えた。

「キスだけで止める自信がなかったんだ。高校生の時は唇が触れただけで満足出来たけど、今はきっとそれ以上欲しくなるに決まっているから……」

 苦しそうに笑いながら、彼の指が唇の上をなぞっていくと、花梨は呼吸の仕方を忘れて息苦しさを感じる。

「花梨は知らないだろ? 俺がずっと我慢してること。笑顔を見るたびに抱きしめたくなって、声を聞くだけでキスをしたくなる。香りを嗅いだら花梨を押し倒して、自分のものにしたくなるんだ。もう飢えた野獣みたいだろ? でも花梨の前ではこの感情を抑えるのに必死だった」

 その言葉が事実であることを証明するかのように、北斗はあえて花梨の髪から手を離すと、深呼吸をしてから微笑んだ。

「あはは、こんなこと言ってごめん。まだ時間はたくさんあるからね、これからゆっくりと──」
「私も同じだよ……」
「えっ……」

 この感覚はなんだろう──今まで感じたことがないほど体が熱い。息が苦しい。彼から離れたくなくて、花梨は自分から北斗に抱きつく。
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