妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
 花梨の頬を一筋の涙が零れ落ちる。絵本を出版した後も、自分の作品になかなか自信が持てない時期があった。そんな時に毎月届くテディさんからの手紙は、花梨に元気と自信を与えてくれていたのだ。

 今もこの手紙が楽しみで仕方なかったし、落ち込んだ時に何度も読み返しては、温かい気持ちになった。

 その手紙の主が北斗だなんて、考えたこともなかった。でも内容を振り返っていけば、現在の彼との共通点が多々あることに気付く。

 窓全体から部屋に夕陽が差し込み、先ほどまで白かった部屋をオレンジ色に染める。花梨は絵本とレターセットを抱きしめ、窓辺に近寄った。嬉しくて真っ赤になっているはずの頬を、夕陽が隠してくれたことに安堵した。きっと今彼が出てきて花梨の顔を見ても、何も思わないに違いない。

 花梨は心を落ち着けるため、ペットボトルの蓋を開けて水を口に含む。二口目を飲もうと口を開けた瞬間、背後から突然北斗に抱きしめられ、危うくペットボトルを落としそうになったのをギリギリでキャッチした。

「えっ、ほ、北斗くん? シャワー浴びるの早すぎない?」
「……ちょっと心配だったんだ。でも花梨がシャワーを浴びてきれいになったのに、俺が汚い体でいるわけにはいかないから……」

 言葉の意味がわからず首を傾げた花梨、ハッとして北斗の方を振り返る。

「……もしかして、私が逃げると思ったの?」
「可能性はゼロじゃないと思って」

 彼をここまで不安にさせたことを申し訳ないと思うのに、花梨のことが心配で急いで浴室から出てきた北斗を可愛いと思ってしまう自分がいて驚いた。

 こんなに素敵な大人の男性を可愛いと思うなんて、私ってばどうかしてる──そう思うのに、胸の奥がキュンと締め付けられるのを感じる。

「自分の意思で来たんだもん。いなくなったりしないよ……」

 花梨が言うと、北斗は嬉しそうに微笑む。それから花梨の手に握られた絵本を見て、時が止まったように動かなくなる。その様子を見て、自分の考えが正解だったことを確信した。
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