妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
「北斗くん、嘘ついたのね。私のことを知ったのは一年前とか言ってたのに」
「……ごめん」
「いつから知ってたの?」

 彼の顔を見るため、北斗の力が弱まった時にくるりと体の向きを変えた。すると彼は眉間に皺を寄せ、困ったような表情を浮かべている。

「ずっと知ってたよ」
「ずっと?」
「及川先生と連絡を取り始めたのは一年前じゃないんだ。本当は卒業してからずっと連絡を取り合っていた。だから花梨のことは逐一教えてもらっていたし、写真も見せてもらってた」

 まさか二人が卒業後も繋がっていたとは思いもしなかった。

「俺が花梨を諦めきれなくて、それを及川先生はずっと応援してくれた。ファンレターを出し続けたのは、俺本人とは知らなくても、花梨と繋がっていたかったから……だからあの手紙に書いていたことに嘘はないよ。いつも文末に書いてあっただろ? 『先生のことが大好きです』って。伝わらなくてもいい、違った意味で捉えられてもいい──花梨にこの気持ちだけは伝えたいって思ったんだ」

 確かに毎回その言葉で閉められていたが、そういう意味が込められていたなんて──花梨は驚いたが、テディからの手紙には必ず添えられていた言葉だった。こんなにも長い間、彼が自分を思い続けてくれていたことを目の当たりにして、胸が締め付けられるほどの喜びに包まれる。

「私……テディさんからの手紙が毎月すごく楽しみだったの。こんなふうに思い続けてくれるテディにいつかちゃんとお礼がしたいって思ってた」
「お礼なんていらないよ。今こうして花梨が、俺の手が届く場所にいてくれるだけで幸せだから」

 北斗の腕に強く抱きしめられ、花梨も彼の胸に体を預けた。

「テディさんが北斗くんで良かった……。嫌なこと、全部吹き飛んじゃった」

 二人は微笑み合うと、どちらからともなく唇を重ねる。

 花梨の手から絵本とレターセットを取った北斗は、それらをテーブルの上に置き、
「水、俺ももらっていい?」
と言って、ペットボトルを引き抜いた。

 花梨が頷くと、彼は勢い良く水を飲み、
「花梨は飲んだ?」
と問いかけた。

「少し飲んだから大丈夫」

 その言葉を聞いた途端、北斗は窓に花梨の体を押し付けて唇を重ねた。今までにないほどの貪るようなキスからは、彼の内に秘めた熱情を解き放つ瞬間を待っているかのような荒々しさを感じる。

「ずっと好きだった……今もずっと……」

 私、これからどうなっちゃうんだろう──キスの甘さに体から力が抜けてしまい、北斗の足の上に跨るように落ちた。すると北斗は花梨を抱き上げ、一目散に寝室に向かって走り出した。
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