妖精渉る夕星に〜真摯な愛を秘めた外科医は、再会した絵本作家を逃さない〜
* * * *

 仕事を終えて病院まで来たが、北斗からの連絡はまだ入っていなかった。病院の入口近くに行くものの、すでに受付が終わったロビーは閑散としている。きっとこれから病院に来るのは、面会の人だけに思えた。

 とりあえず彼が来るまで、どこかで待っていよう──そう思って場所を移動しようとした時だった。

「あら、山之内さんじゃない」

 その声には聞き覚えがあった。つい先日も同じように声をかけられたから、忘れるはずはない。

 花梨は眉間に皺を寄せ、怪訝な顔で振り返ると、そこには不敵な笑みを浮かべた愛佳が立っていた。オーバーサイズの白いシャツの胸元を開け、隙間から肌にピタリと吸い付くようなキャミソールが見え、細身のデニムを合わせている。

「なぁに? また北斗を待ってるの?」
「……原田さんには関係ありませんから」

 彼女の自信に満ち溢れた感じが、花梨はあまり好きではなかった。自分が見下されているような感覚に陥り、気持ちが落ちていくのがわかる。

 愛佳に背を向けて歩き出そうとすると、
「あんたたち、なんで再会なんかしたわけ?」
と、どこか怒りを感じるような様子で声をかけられた。

「あのまま誤解して、一生会わなければよかったのに。そうすれば北斗だって、諦めて親の言いなりになったはずなのよ。本当にあんたって、昔から邪魔なのよねぇ」

 花梨が誤解していたことを、なぜ彼女が知っているのだろう──彼女の言葉には何か含みがあるように聞こえ、足を止めて愛佳を睨みつける。

「……どういうことですか?」

 花梨が尋ねると、愛佳は花梨を見下すように声をあげて笑い始めた。それが悔しくて、花梨は思わず唇を噛んだ。

「あはは! 本当に何も気付いてないの? ねぇ、よく考えてみなさいよ。あんなにタイミング良く、キスの現場に出くわすと思う?」
「それって……どういう意味ですか……?」
「うふふ……知りたい? じゃあ教えてあげる。あの日、北斗が部室に行ったのを確認してから、部室棟の階段の窓から、山之内さんが来るのを覗きながら待ち伏せしてたの」
「待ち伏せ……?」

 それは思いもしなかった言葉だった。あれは偶然出くわした場面だと思っていたのに、今の言葉を聞く限り、仕組まれたものだったと受け取れる。
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