あなたの1番になりたい。
『思った以上に、事態は深刻です』

そう打ち込んでから、指を止めて
少し考え、消去を長押しして文字をすべて消去する。

まだ、言うべきじゃない。

伊吹さんは「犯人を見つけろ」と言った。
だったら、それまでは余計な情報を報告しない方がいい。


一瞬、結城先輩の名前が頭をよぎる。

情報共有のために――
そう思ってスマホに入ってる連絡先から先輩の名前を探し、スクロールしてから気付いた。

…そうだ。
先輩とは連絡先を交換していなかったんだ。
連絡しようにも方法がない。


あの子がこの高校に来るまで、私と先輩は言葉を交わす事もなかった事実が、妙に胸の奥で疼く。



放課後。

体操服に着替えて部活へ向かう生徒や
どこで遊ぶか話し合う生徒たちが行き交う靴箱。

1年生の靴箱の前で、私は英単語帳を開いたまま立っている。

正直、あの子と帰るなんて嫌だ。
けれど、伊吹さんに頼まれたことを断れるほど強くはない。

「嫌われたくない」

その気持ちに縛られている自分が、情けないことくらい分かっている。


あぁ、もう!
やめた!

余計な事を考えるのをやめるために、私は手に持っている英単語帳に書かれている単語をひとつずつ頭の中で復唱する。



「レイさんっ!」

大きな声で名前を呼ばれ、顔を上げると
靴に履き替えたあの子が立っていて、その少し後ろに結城先輩がいた。


「もしかして……待っててくれたんですか?」

彼女の表情が、ぱっと明るくなる。


「伊吹さんに頼まれただけだから…、」

自分から来たわけじゃない。
それは、はっきりさせておきたかった。

「それでも、嬉しいです。ありがとうございます」

にこっと笑う彼女。

その笑顔が、
今の私には、少し眩しすぎた。
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