あなたの1番になりたい。
伊吹さんとあの子がビルの中へ入っていくのを見届けてから、続くように中へ入ろうとした結城先輩の腕を、私は咄嗟に掴む。

「先輩、ちょっと…」

自分でも驚くほど、指先に力が入っていた。

周囲にはまだ伊吹さんのグループの人たちがいる。
誰にも聞かれたくない内容だから、あさっての方へ視線を逸らし、顎も同じ方向へ向ける。

先輩は歩みを止め、驚いた様子で私の手首に視線を落としていた。

掴んだままの腕が、やけに近い。

手を離さなければと思うのに、離すタイミングを見失い
引っ込められない状態。


数拍の沈黙のあと、先輩はいつものポーカーフェイスに戻り、小さく頷いた。


人通りの多い道を抜け、
――カラン、カラン
と軽い音を立てて、カフェのドアを押し開ける。

向かったのは、拠点のビルから少し離れた、こじんまりとしたカフェ。
席数は少なく、店内を出入りする客の顔を一通り確認できる。

その静けさは、今の私に都合がよかった。

映えを狙ったスイーツは置いておらず、コーヒー一本で勝負しているような店だ。
制服姿の学生は、私たち以外にいない。


店内に足を踏み入れた瞬間、ハッとする。

「先輩、コーヒー…飲めますか?」

先輩の好みも確かめないまま、この店を選んでしまった。

黙ってついてきてくれたことが、急に申し訳なくなる。

「……大丈夫」

短い返事。
それだけなのに、拒まれていないと分かって、ほっと息をついた。

「よかったです」

そう言って小さく笑い、店主に案内されるまま、道路に面した窓側の席へと腰を下ろした。
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