御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~

「おやすみなさい……」

 ドアからそそくさと外に出ると、運転席の副社長に向かって頭を下げる。

 ゆっくり動き出した黒い車は、街灯や周囲の建物の明かりを受けてそのボディを美しくきらめかせ、やがて角を曲がると見えなくなった。

 ……なんだか副社長に振り回されてる気がする。

 ああいう、住む世界が違うタイプの男性とは極力距離を置きたくて必死で境界線を引いているつもりなのに、あの年下御曹司はどうして遠慮なくその線を踏み越えて来ようとするのだろう。

 彼の思わせぶりな態度を思うと、いつも少し胸が苦しくなる。

 騙されてはいけない、と思う気持ちと、前回の失恋からまだちゃんと治っていない心の傷を誰かに癒やしてほしい気持ちとが、喧嘩しているからだ。

 でも、癒やしてほしいというだけで誰かと接するなんて子どもっぽい依存にも思えるし、相手にも失礼だ。

 彼が万が一私に好意を持ってくれていたとしても、その気持ちを利用するようなことはできない。

 私は大人しく、この小さなアパートの小さなテーブルでご飯を食べ、スマホの小さな画面で見る動画の小さな癒やしをよりどころに生きていく。

 それが身の丈に合った生活というやつだ。だいたい、前の恋人に騙されていたのは現実が見えていなかった自分のせいなんだし……。

 考えれば考えるほどネガティブになってきて、アパートの階段を上る足取りはひどく重たかった。

< 30 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop