御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~
「それはうまくいってから考えればいいことではないでしょうか……。第一、あの公園のボートって、デートで一緒に乗った恋人は別れるという都市伝説が有名じゃないですか。縁起が悪いです」
「芦屋さんがそんなジンクスを信じるとは意外です。でも大丈夫。この間も言いましたが、僕は一途なタイプなので」
「あの……私が言いたいのは私たちの個人的な関係についてではなく、御門ホテルと才賀先生との縁が切れてしまうのではないかということでして」
「なんだ、そっちですか」
副社長が残念そうにフッと笑う。まったく、この人はどこまで本気なのかよくわからない。
「――あ、あの建物でしょうか」
「ですね。さすが才賀先生。事務所も個性的だ」
公園の南側に広がる住宅地の一角に、その小さなビルはあった。
外壁には打ちっぱなしのコンクリートにガラスカーテンウォールが使われ、一見無機質な印象だけれど、縦縞模様のように規則的な列でほどこされた植栽の緑が綺麗だ。いわゆる壁面緑化というやつだろう。
車を降りると、ガチガチの私の肩に副社長がポンと手を置く。
「リラックスですよ、芦屋さん」
「わ、わかっています……」
こわばった声で返事をした私は、右手と右足を一緒に出さないよう注意しながら、副社長と共に事務所の受付へ向かった。