御門くんの執愛攻めには抗えない~策士な年下御曹司は偽装婚約で愛し堕とす~

「お待たせしました……」

 背後で試着室のドアが開く音がして、元の私服に着替えを済ませた芦屋さんが出てくる。

 未だに照れている様子なのがかわいい。

 俺は彼女が持っている服を受け取ると、店の人を呼んで会計を依頼する。

「本当に買っちゃうんですね」
「そんなに驚かなくても。あれ? 芦屋さん、後ろのボタンが……」

 彼女が着ているシフォンブラウス、その首の後ろを止めるボタンが外れているのに気づいた俺は、軽く身を屈めて両手をスッと彼女の首に回し、小さなボタンを留める。

 その時、ちょうどうなじのあたりに軽く触れてしまい、芦屋さんがビクッと肩を震わせた。

「ごめんなさい、くすぐったかったですか?」
「いえ、大丈夫ですっ……。ボタン、ありがとうございます!」

 まとめた髪を揺らしながら、ブンブン首を左右に振った彼女の顔は真っ赤。年上の女性らしからぬ新鮮な反応に胸を撃ち抜かれ、こちらまで首筋や頬が熱くなってくる。

 才賀先生の店がどうしても御門ホテルの中に欲しいというのも嘘ではないが、今日のショッピングは、俺の個人的な願望を叶えたかったという意味合いの方が強い。

 これまでも、暇さえあればリーシング部に出向いて芦屋さんと接触しているし、自分の気持ちは何度もアピールしている。

 それでも、手ごたえがあるかと聞かれたら少し微妙だった。

 芦屋さんはすぐに俺から逃げようとするし、一度だけ彼女が口にした『男性不信』のひと言も気になる。

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