罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
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 ――鳥の声がする。

 ふと目を開けると、カーテンの隙間から眩い光が差し込んでいた。ベッドから身を起こし、ひたひたと窓に近寄る。カーテンを開けると、小さな鳥影が青い空に羽ばたいていくのが見えた。嵌め殺しの窓の向こうに見えるのは干からびた黄土色の大地。見知らぬ庭先。
 ガチャリ。部屋の扉が開かれる音がして、シルヴィは後ろを振り向いた。立っていたのは、泣き黒子が印象的な若い女だ。緩やかなウェーブを描く赤銅色の髪をかきあげて、濃い睫毛で彩られた黒い瞳を驚いたように瞬かせている。

「あら、早いわね。もうちょっと寝てたらいいのに」

 そんな事を言いながら、閉めてあったカーテンを次々に開けて行く。薄暗かった部屋に光が満ち、部屋の様相をくっきりと描き出す。さっきまで寝ていた木製のベッド。大きなクローゼットや鏡台もある。昨日寝かせられていた部屋と同じ部屋だ。今日からここがシルヴィの部屋、ということなのだろう。

「せっかく起きたんだし、身支度整えちゃいましょうか」

 そう言って、ベッドの上にバサバサと抱えていた服を置いた。

「おはようございます。……あなたは?」
「ああ、あたし?あたしはイサベラ。男所帯じゃ何かと不便だろうからって、あなたのお世話をお願いされたの」

 肉感的な唇が、にっこりと弧を描いた。

「シルヴィと申します」
「よろしくね、可愛いお姫様」

 こんな綺麗な人に嫌みなく褒められたら、なんだかちょっと照れてしまう。頬を染めるシルヴィにイサベラが手招きする。姿見の前に立たせると、ベッドに置かれた服をシルヴィにあれこれと合わせ始めた。

「急だったから何も準備が出来てなくて、あなたの服がまだないの。そのうち用意させるけど、今はあたしの手持ちで我慢してね。似合うのがあるといいけど」
「……はぁ」

 シルヴィの目は身を屈める彼女の胸の谷間に釘づけになった。薄い自分の胸と見比べる。……本当に似合うものがあればいいが。
 そんなシルヴィの心配をよそに、イサベラが選び出した服は程よく襟ぐりの開いた清楚なデザインのものだった。裾がストンと落ちたデザインで、城のドレスより動きやすいのが気に入った。仰々しい城のドレスを脱いでしまえば、シルヴィもただの娘のようだ。鏡の前で身を捩り、いつもとは違う自分を眺めていると、イサベラが鏡台の椅子を引きシルヴィに座るよう促した。

「本当に綺麗な髪ね。さすがお姫様、手入れが行き届いてるわ」
「……ありがとうございます」

 イサベラがシルヴィの髪を梳きながら舌を巻く。頬がまた少し、熱くなる。

「お城ではこういうのって、やっぱり侍女にやってもらうの?」
「ええ、乳母のアナンダに……」

 脳裏に浮かぶのは、出立前に見た心配そうなアナンダの顔。今回の出来事が城にどのように伝えられているのか知る由もないが、いい話でない事だけは確かだ。こんなことになってしまって、きっと心配していることだろう。ショックで体調を崩していなければいいのだが……。
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