罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
 黙り込んだシルヴィの肩をイサベラがポンと叩く。

「こんなことになっちゃったけど、二度と帰れないってわけじゃないし。生きてりゃきっと、なんとかなるわよ」
「イサベラさん……」
「イサベラでいいわ。まぁこれ、グイドの受け売りなんだけどね。……シルヴィ、ちょっとお話しない?」

 ベットに座り込んだイサベラが、再びシルヴィに手招きをした。
 ――丁度よかった。

「わたしも聞きたい事があります」
「なぁに?」
「昨日、わたしの目の前で起こった事について」

 イサベラはシルヴィの問いに動揺を見せなかった。もとよりそれを説明するつもりであったらしい。シルヴィはイサベラの隣に腰を下ろした。

「シルヴィ、あなた『堕とし子』って知ってる?」
「……いいえ」

 それはシルヴィが初めて耳にする言葉だった。

「この世にはね、稀に悪魔の力を持って生まれる子供がいるの」
「悪魔の力?」
「人知を超えた不思議な力よ。あなたも見たでしょう?」

 シルヴィは静かに頷く。
 常軌を逸する魔王(グイド)の怪力もそうだが、なにより信じられないのは人間を呑みこんだあの炎。あの時、あの場のどこにも火種はなかった。たとえ火種があったとしても、衣を焼くのが精々のはずだ。短時間に人を消し炭に変えるほどの火力を、シルヴィは知らない。

「悪魔が気まぐれに妊婦と交わり生まれた子供。だから、悪魔の『堕とし子』」
「そんな、悪魔だなんて……いるわけないのに」

 魔法や悪魔など世迷い事だ。この世は剣と、盾と、それを振るう人の力によってのみ動かされる。シルヴィ自身、幼いころよりそう教えられてきた。

「あたしもそう思うわ。でもね、そんな迷信を未だに信じている奴らがいるのは事実よ。そんな親の元に生まれた子供たちがどうなるか……あなたわかる?」

 イサベラはシルヴィに向かってずいと身を乗り出した。黒々とした彼女の瞳にシルヴィの姿が映り込む。

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