罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
「疎まれて捨てられるだけならまだいいわ。中には人買いに売られる子供もいる。いずれにしても、まともな人生は歩めない」
「そ、そんな……」

 人とは違う力を持つ。ただそれだけで、子供を捨てる、ましてや売り払う親がいるなんて。

「……信じられない」
「そう思えるあなたは幸せよ」

 イサベラの声に皮肉はなかった。羨ましい、そう言っているようにも聞こえた。
 いつでも、どんな時でも、優しくシルヴィを包み込んでくれた母。(まつりごと)においては厳格な父王も、シルヴィ達の前では誰よりも家族を思いやる優しい父親であった。可愛らしいエミリーや、心配性の乳母――彼女の周りはいつだって優しさに満ち溢れていた。
 シルヴィは確かに幸せだったのだ。だって、そんな本来与えられるべき無償の愛を得られない人達がいるなどと、これまで一度だって考えた事はなかったのだから。
 イサベラは悄然とするシルヴィに微笑みかけると、彼女からそっと身を離した。

「この場所ってその昔に滅んだジクマ国だっていうのは知ってる?ジクマではね、そういう人も珍しくなかったらしいのよ。だからグイドが提案したの。ここに世間からはぐれた者でも暮らしていけるような場所を作ろうって」
「そうなんですか……」
「安心して。おかしな力を持っていたとしても、ここにいるのは、皆、『人』よ。――まあ、グイドは(周辺国)から魔王だなんて呼ばれているようだけど」

 すっくとイザベラが立ちあがる。話はどうやら終わりらしい。

「あの……!」
「なぁに?」
「イサベラも……そう、なのですか?」

 イサベラの艶やかな口元に、ふんわりと優しげな笑みが浮かぶ。

「グイドは悪魔の力を持っているけれど、いい奴よ。信頼していいわ」

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