罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
 館の廊下は実に狭かった。そして何故かとても入り組んでいる。まるで迷路のようだ。妙に細長の窓から差し込む光で明るさこそ保たれているが、白い壁に落ちる影がまるで牢屋の格子のように連なっていて少々気味が悪い。恐々と辺りを見渡すシルヴィに「おかしな家だろ」とグイドが言った。

「以前の持ち主がえらく変わったやつでな。溜めこんだお宝を守るために、こんな造りにしたらしい。いわゆる侵入者対策ってやつさ」
「ああ、だから物見やぐら……」

 たかだか領主の館にどうしてそんなものがあるのか不思議だったが、これで合点が入った。ここを建てた人物は随分と用心深い性格であったらしい。

「今はほとんど使ってないが、あそこからの眺めはなかなかいいぞ。今度連れていってやるよ」

 通り抜ける廊下にはいくつもの扉があった。全部でいくつ部屋があるのか、グイドも正確には把握していないらしい。中にはダミーの扉まであると笑いながら言っていた。
 何とも奇妙な屋敷であるが、彼がここに居を構えた理由が少しわかるような気がした。命を狙われる身からすれば、実に好都合な造りであるからだ。身を隠す場所が山ほどあるうえ、抜け道の一つや二つもきっとどこかにありそうだ。
 もっとも、彼であればそんな侵入者などあっさり返り討ちにしてしまうのだろうが。
 やがて大きな扉の前に辿りついた。ギイ、と扉を押し開く。部屋の中央にある大きなディナーテーブルには既に先客の姿があった。

「シルヴィ、こっちよ」

 見るとイサベラが手を振っている。手招きに応じて彼女の隣の席へと進む。背後に控えていた黒髪の青年がシルヴィの椅子を引いた。腰をかけようと身をかがめるが、

「あ――――――――!!」

 突然響いた大声にビクリと小さく肩を竦める。
 テーブル席の向かい側。今まさにグイドが座ろうとしている席の隣に座る男が、こちらを指差しながら椅子を倒さん勢いで立ちあがるところだった。

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