罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
「ルベルトワのお姫様!!閣下!もう、抜け駆けなんてずるいじゃないすか、俺にも紹介して下さいよ」
「抜け駆け?全く馬鹿な事を言うな。それから人を指差すんじゃない」

 グイドに肩を押さえつけられ、男は無理やり席に座らせられた。

「ええと、あなたは?」
「ああ、こいつは」

 グイドが口を開くよりも一寸早く、男はびしっと真上に手を上げて勢いよく立ち上がった。

「はいはい! 俺、テオっていいます! 『荒れ地の魔王』の右腕やってます!!」
「『自称』が抜けてますよ」
「うるせぇ!!」

 魔王の右腕――。
 黒髪の青年の呟きにギャンギャン噛みつく男をじっと見つめる。襟足だけを残し短く刈り上げた藍灰色の髪。切れ長の瞼から覗く真っ赤な瞳。式典を炎で包んだあの彼に間違いなかった。

「申し遅れました。シルヴィでございます。以後お見知りおきを、テオ様」

 そっと会釈し、再び彼の方を見やると、その顔が何故かぼうっと赤らんでいる。

「閣下!『テオ様』だって!! 俺、女の子に『様』なんて呼ばれたのなんて初めてっすよ!……あれ? なに怒ってるんすか? 閣下も呼んでもらえばいいじゃないっすか、『グイド様』って……うにぃ!!」

 興奮気味で捲し立てるテオの頬を太い指がむんずと掴んだ。

「お前、ちょっとは口を閉じていられないのか?」
「はっは、いはいいはい」

 頬をめいっぱい抓られてテオはほとんど涙目だ。このままでは頬が伸びきって二目と見られない顔になってしまうのではないだろうか。それはあまりに可哀そうだ。

「なにやってんのよ、あんた達。シルヴィがびっくりしてるじゃないの」
「――すまん」

 グイドがパッと手を引っ込めると、飛び退いたテオが頬をさする。

「はー、痛かった。驚かせちゃってごめんね、シルヴィちゃん」
「シルヴィちゃん……」

 ……なんて、初めて言われた。
 なにせ一国の王女として生まれ育った彼女である。そんなふうに気軽に話しかけてくれる人など、今まで誰もいなかった。それが年の近い若者であれば尚更だ。その響きはとても新鮮で、なんだがこそばゆくもある。

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