罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
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 王都を出立して五日がたった。
 街道に建物を見なくなって久しい。そのうちに農地すらなくなり、辺りは一面の荒野と化していた。高い木など一つもない。カラカラに干からびた大地を蹴る砂埃だけが舞い上がる。
 かつての交易路の名残なのだろうか。かろうじて道と分かるそこは、ほとんど整備がされておらず、馬車はゴトゴトと忙しなく揺れた。お尻が痛くてじっとしているのが辛い。

 シルヴィは孤独だった。勿論傍らには侍女も護衛もいる。だが、ちっとも話が弾まない。和平交渉の為に選抜されたと言うからには、彼らはかなり優秀なのだろう。しかし会話をしようにも二言三言で途切れてしまう。旅を共にするにしては、実に愛想のない道連れだった。 

 シルヴィは誰かとお話するのが大好きだ。話すもの好きだが、誰かの話を聞くのはもっと好きだ。同意であっても批判であっても、他の人の意見を聞けば、それだけ見聞が広がって、深く物事を知ることが出来る。誰とでも打ち解けられるというのがちょっとした自慢であったのだが、この同乗者達にはそのつもりはないらしい。そのうちに愛想笑いするのにも疲れ、さすがの彼女もほとんど何も話さなくなった。
 だからこうして車窓から、流れる風景ばかりを見ている。

(ああ、せめてここにアナンダがいてくれたら……)

 いたら彼女は絶対にリタイアだ。道中の村で道半ばにして倒れるしかなかったはずだ。彼女を連れてこなかったのは、やはり正解だったのだ。弱気な心を叱咤して、シルヴィはプルプルと首を振るう。 
 成人の儀は数年前に、確かに済ませてはいる。とはいえ、これまでは国内での公務が殆どで国外――しかも自らが代表となり赴くのは今回が初めてだ。緊張するのはしょうがない。無理やり自分に言い聞かせた。

 ――旅馬車は進む。

 荒れ果てただけの地に、突如街並みが戻って来た。
 交易で栄えた当初の繁華街の名残なのだろう。街道を挟むように煉瓦造りの建物が立ち並ぶが、壁や戸口は瓦解し、見る影もない。
 街頭に人影はなかった。奇妙なまでの静けさ。しかし、何かがひっそりと息を詰めるような気配が街中に充満しているのは、旅馬車のシルヴィにも、ひしひしと伝わって来た。

 ――旅馬車が止まる。

 和平交渉の場に指定されたのは打ち捨てられた旅場の中央に座する領主の館であった。
 見上げるほどに高い赤煉瓦の壁に囲まれている。門扉の奥に見えるのは、同じく煉瓦造りの大きな建物。増改築でもしたのだろうか、いびつな広がりを見せている。屋根のてっぺんに、物見やぐらのようなものまで見えた。

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