罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
 ギ、ギ、ギ……。

 軋んだ音を立て黒い門扉が開かれる。荒れ地というから、どんな荒くれ者が出てくるかと思えば――。
 出迎えたのは、華奢な、病的なまでに白い肌を持つ黒髪の青年だった。

「ようこそ、荒れ地(アンセイフ)へ」

 にこりともせずそう言うと、一行を屋敷へと(いざな)う。

「長旅でお疲れでしょう。どうぞこちらでお休みください」

 通された応接室には四人掛けのどっしりとしたソファ。木製のローテーブルはピカピカに磨きあげられている。さすがに城のそれとは比ぶべくもないが、館の古ぼけた外観とは裏腹に、室内は随分と手入れが行き届いているようだった。
 カチャリと扉が開かれる。
 ふんわりと香ばしい匂いが辺りに満ちる。さきほどの青年がお茶を運んで来たようだった。

「どうぞ」

 白磁のカップに負けないほど白い指が、優雅な手つきでことりとカップを机に置く。

「まさか第一王女直々にいらっしゃるとは」
「ルベルトワの未来のかかった大事な交渉と認識しております。ここは王族であるわたくしが出向くべきであると判断いたしました」
「光栄なことです」

 世辞なのか、皮肉なのか。一切の表情が抜け落ちたその顔はただただ綺麗な仮面のようで、彼の真意は全く読めない。

「無用な争いは望みません。わたくしは和平を結ぶためにまいりました」

 強くそう言い切る。

「そうありたいものですね」

 男の表情は変わらない。ただ、今の言葉には明らかに疑念が含まれていた。シルヴィは少しだけ眉を顰める。

「まもなく会見の準備が整います。もう暫くお待ちください」

 青年は部屋を退出するまで、シルヴィと一度も目を合わせる事はなかった。
 彼が再び部屋に現れたのは、それから一時間ほどしてのことだ。

「大広間の準備が整いました。こちらへ」

 丁寧だが無愛想にそう言うと、一行を廊下へと連れ出した。
 広間の扉がゆっくりと開かれる。
 するとその奥に。
 漆黒の、大きな塊が――。

 こちらをじっと、見ていた。

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