罠に落とされた生贄姫は、荒野の悪魔の最愛となる
 ガギン、と鉄の鈍い音。
 魔王の腕に突き立てられたかのように見えた刃先が砕けた音だった。

「な、(やいば)が!!」
「これは一体どういうつもりだ?」

 魔王の問いかけに悔しそうに唇を噛み、侍女が一歩、後退る。と、同時に背後に控えていた護衛がズラリと一斉に剣を抜く。

「なんだ、お前たちもグルなのか」
「黙れ化け物!!」

 飛びかかる護衛の頭を、魔王の手がむんずと捉えた。魔王の背丈は護衛達より頭一つ飛び抜けている。頭を鷲掴んだまま、視線の先まで引き上げる。

「おいお前。人が訊いてるんだ、質問にくらい答えろ」

 ――ぱきゅ。

 腰の抜けたシルヴィの頭上で、何かが弾ける音がした。

「ああ。力入れすぎたか」

 宙に浮きジタバタともがいていた護衛の足が、ダラン、と力なく垂れ下がる。魔王が無造作に腕を振るう。熟れて潰れたトマトのような頭を晒して、護衛の体はゴロゴロと仲間の元に転がっていく。
 ガシャリ。重い音がして、魔王が足を踏み出した。兜の視線は侍女に据えられている。

「あ、ああ、あ……」

 言葉通り射抜くような視線を浴びて、侍女の脚はガクガクと戦慄きだした。
 漆黒の腕が彼女に伸びる。

「ひぃっ……」
「ま、待て! 逃げるな!!」

 低く叫んだ侍女は、護衛が止めるのも聞かず出口を求めて後方の扉に向かって走り出した。が、すぐにその足を止め、胸をはげしく掻き毟った。

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