辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする

ずっとそばにいたい

 その翌週の土曜日。
 クリスマスまであと二週間ほどになり、街のあちこちにクリスマスの飾りやイルミネーションが輝いている。
 プラチナでも、店の前の観葉植物をモミの木に見立ててモールで彩り、店内の壁にサンタクロースやトナカイ、雪の結晶などのオーナメントを飾っている。それだけでなく、クリスマス当日まで、沙耶たちも普段のキャスケットの代わりにサンタクロースの帽子を被るのだ。
 メニューはといえば、寒くなったせいか、グラタンやドリアなどが大人気で、ドリンクもホットチョコレートやココアなどがよく出るようになった。
 常連客はいつものようにプラチナでランチを食べたり、お茶とスイーツを楽しんだりした後、沙耶たちに声をかけて店を出ていく。
 六時に閉店して、涼花と沙耶とアキコの三人で片づけを始めた。
「涼花ちゃんと沙耶ちゃんは、クリスマスにシュトレン食べたりするの?」
 アキコに訊かれて、涼花が訊き返す。
「シュトレン?」
 アキコは鍋を洗う手を止めて涼花を見た。
「日本ではシュトーレンって言われてるけど、ドイツではシュトレンって言うんですよ」
「あ、聞いたことあります。本場ドイツではクリスマスの一カ月前くらいから少しずつ食べるとか」
 涼花が言い、アキコは再び手を動かしはじめる。
「そうそう。それを知らなくてね、去年、ドイツ菓子のレシピ本を買って作ってみたら、主人に『重すぎる』って不評で。そりゃあ、薄くスライスして食べるはずのものを、四分の一切れ、十センチも出しちゃあねぇ」
 アキコは続けて「ふふっ」と笑った。
「今年は作らなかったんですか?」
 涼花の問いかけに、アキコは少し考えて答える。
「ええ。でも、作ってみてもいいかもしれないわね。今からじゃ食べきれないかもしれないけど」
 やがて閉店作業が終わって、一足先にアキコが退店した。沙耶と涼花は更衣室でそれぞれコートを羽織る。
「沙耶ちゃん、今日は予定があったのに、最後まで残ってくれてありがとう」
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