辣腕クールな脳外科医は、偽りの婚約者を甘く堕として妻にする
そこここに手作り感があって、和でも洋でもなく、とても家庭的だ。たとえて言うなら、祖母の家のようなホッとする温もりがある。
「こういう雰囲気のカフェは……初めてです」
ふと沙耶がつぶやくと、涼花は目を伏せて、口元に淡く笑みを浮かべた。
「……そう、ですね。高齢者に生きがいづくりの場を提供したいなって思ったのが、このカフェを始めた理由なんです」
声が沈んだように聞こえたが、涼花はすぐに顔を上げて明るい声を出す。
「よくシルバー人材とかいうでしょう? そういうのを超越して、“プラチナ”。最強! みたいな」
涼花がおどけた表情で力こぶを作った。沙耶が思わず微笑むと、涼花はホッとしたように頬を緩めた。
「よかった。少しは元気になったみたいで。彼がここからベンチに座っているあなたを見つけて、それで、どうしても気になって声をかけちゃいました」
涼花は、壁にもたれている男性を視線で示して言った。
「そうだったんですか……。ありがとうございます」
省吾に振られてひとりぼっちになってしまったと思っていたのに、涼花とこの男性は見ず知らずの沙耶を気遣ってくれたのだ。そんなふたりの温かい気持ちが嬉しくて、沙耶は泣き笑いの表情になった。
「よかったら、話を聞きますよ。つらいことは吐き出してしまいましょう」
(これ以上ご迷惑をおかけするのも……)
沙耶が迷っていたら、涼花は沙耶の顔を覗き込んで、優しい声で「ね?」と促した。その温かなまなざしにつられて、沙耶はゆっくりと口を動かす。
「実は……二カ月前、五年勤めた食品メーカーが倒産したんです。私、食べるのも作るのも大好きで、今度も食品関係に勤めたいなって思って、一生懸命、就職活動をしてたんですけど……ぜんぜん再就職先が決まらなくて」
そんなときに付き合っていた彼氏が浮気をしていたと知り、ついさっき振られたばかりなのだと打ち明けた。
沙耶がテーブルの上に置いていた手に、涼花が慰めるように自分の手を重ねた。
「そんなことがあったんですね……。それは本当につらかったですね」
涼花の温かな手と思いやりに満ちた声に、またもや沙耶の涙腺が緩んだ。泣きたい気持ちを紛らせようと、沙耶はわざと顔をしかめて言う。
「まさに踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂ですよね。自分でもびっくりです」
あはは、と気持ちのこもらない笑い声を立てたとき、涼花がぐっと身を乗り出した。
「ね、うちで働いてもらえないかな?」
「はい?」
突然の言葉に沙耶は目を丸くした。涼花がさらに顔を近づける。
「こういう雰囲気のカフェは……初めてです」
ふと沙耶がつぶやくと、涼花は目を伏せて、口元に淡く笑みを浮かべた。
「……そう、ですね。高齢者に生きがいづくりの場を提供したいなって思ったのが、このカフェを始めた理由なんです」
声が沈んだように聞こえたが、涼花はすぐに顔を上げて明るい声を出す。
「よくシルバー人材とかいうでしょう? そういうのを超越して、“プラチナ”。最強! みたいな」
涼花がおどけた表情で力こぶを作った。沙耶が思わず微笑むと、涼花はホッとしたように頬を緩めた。
「よかった。少しは元気になったみたいで。彼がここからベンチに座っているあなたを見つけて、それで、どうしても気になって声をかけちゃいました」
涼花は、壁にもたれている男性を視線で示して言った。
「そうだったんですか……。ありがとうございます」
省吾に振られてひとりぼっちになってしまったと思っていたのに、涼花とこの男性は見ず知らずの沙耶を気遣ってくれたのだ。そんなふたりの温かい気持ちが嬉しくて、沙耶は泣き笑いの表情になった。
「よかったら、話を聞きますよ。つらいことは吐き出してしまいましょう」
(これ以上ご迷惑をおかけするのも……)
沙耶が迷っていたら、涼花は沙耶の顔を覗き込んで、優しい声で「ね?」と促した。その温かなまなざしにつられて、沙耶はゆっくりと口を動かす。
「実は……二カ月前、五年勤めた食品メーカーが倒産したんです。私、食べるのも作るのも大好きで、今度も食品関係に勤めたいなって思って、一生懸命、就職活動をしてたんですけど……ぜんぜん再就職先が決まらなくて」
そんなときに付き合っていた彼氏が浮気をしていたと知り、ついさっき振られたばかりなのだと打ち明けた。
沙耶がテーブルの上に置いていた手に、涼花が慰めるように自分の手を重ねた。
「そんなことがあったんですね……。それは本当につらかったですね」
涼花の温かな手と思いやりに満ちた声に、またもや沙耶の涙腺が緩んだ。泣きたい気持ちを紛らせようと、沙耶はわざと顔をしかめて言う。
「まさに踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂ですよね。自分でもびっくりです」
あはは、と気持ちのこもらない笑い声を立てたとき、涼花がぐっと身を乗り出した。
「ね、うちで働いてもらえないかな?」
「はい?」
突然の言葉に沙耶は目を丸くした。涼花がさらに顔を近づける。