(2025改稿版)俺の妻は本当に可愛い~恋のリハビリから俺様社長に結婚を迫られています~
「由真ちゃんは、どうしてここに?」


彼の興味をそらすため、急いで話題を変える。


「沙和さん、机の上にIDカードを置いたままだったので……」


そう言って、後輩が渡してくれた。

東京営業部はあくまでも一般店舗となっているので営業時間終了後施錠され、IDカードがなければ出入りができなくなる。

東京営業部の担当者にその旨の事情を話して、応接室に入れてもらったらしい。


「うっかりしていて、ごめんね。ありがとう」


「いいえ、では私は失礼しますね」


穏やかな笑みを浮かべて、後輩は部屋を出て行く。

再びふたりきりになり、板谷社長に問いかけた。


「どうしてあんな嘘を?」


「嘘? 婚約者の話なら本気だけど」


「からかわないでください。板谷社長と私では立場が違いすぎて、現実味がありません。第一なんのために婚約を?」


そもそも住む世界が違いすぎるし、お互いについてなにも知らない。


「俺は親族や周囲からの面倒な縁談から逃れられるし、浦部さんは恋愛事情を詮索されずに済む。お互いにとっていい話じゃないか?」


「それは、そうですけど……」


確かに内輪の、同期同士の飲み会などでは時折しつこく恋人の有無など聞かれる。

さらにこの間は他部署に異動した以前の上司から取引先が見合い相手をさがしているなどと言われた。

想いを寄せる人がいると断ったけれど、業務上、社内の人間かなどと尋ねられる場合だってある。


「俺は浦部さんを気に入ってる。そうでなかったら、あの日わざわざ介抱せずに、誰かに手当てを頼んで帰っている」


動揺を隠せない私とは対照的に、彼は冷静に返答する。

整いすぎた面差しには焦りの欠片ひとつ見当たらない。
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