自称ぽんこつ令嬢は今日も記憶をなくしたいのに、殿下の溺愛が止まりません。

 すっかり日も暮れた頃、やっと全員に薬師の作った解毒剤を飲ませることが出来ました。

 数日は寝たり起きたりを繰り返し、傷ついた臓器はすぐには良くならないだろうということですが、宮廷医は危機的状況は脱したと言っていたのでひとまずは安心です。

「ディアナ、今日は本当にお疲れ様。みんながさすが僕の婚約者だと、口々に言っていたよ」
「こ、今回はたまたまお役に立てただけです」

 日が暮れて、帰るわけにもいかなくなった私はリオン様の隣のお部屋を使うように通されました。

 そこまではまだ良かったのです。
 リオン様が私が寝付くまで心配だからと、今私の部屋へやってきて私と一緒にベッドの縁に腰かけるまでは。

「そんなことはないよ。父上も、今回のことで年内に結婚の日取りを決めるように大臣たちに通達を出していたからね。ああ、長かった。やっとだね、ディアナ」
「ね、年内……」

 今年はあと何か月残っていたでしょうか。
 及第点しか取れないぽんこつが、そんな短い時間でどうにかなるとでも思っているのでしょうか。

「今日だって、本当は僕の部屋で寝て欲しかったのに」
「い、いえ、それはさすがに」

 緊張して寝れません。リオン様の匂いのするベッドなんて。

「そうだね。それはこの先の楽しみに取っておこうね。気づいてた? ディアナ。僕の部屋が君の瞳の色と同じだって」
「な、なななん、瞳? 私の色……」

 薄いブルーでしたね、部屋も私の瞳も。
 まさか、そんな風に色を決められていたなんて知りませんでした。
 落ち着くのは、同じ色だったからなんですね。

「僕の好きな色だよ」

 そう言って、私に手を伸ばしたリオン様は、そのまま瞼にキスをした。

「!」
「今日はここまでね、ディアナ。じゃ、また明日」

 何事もなかったような涼しい顔で、リオン様が部屋を出て行く。

 私はそのままベッドに倒れ込んだ。いろんなことがありすぎて、グルグルと回っていた思考が一瞬で固まる。

「……今ならこのまま記憶を失くせそう……。うん、失くしたい」

 恥ずかしすぎて、それなのに嬉しいと思う自分がいて、33回目の記憶喪失になれそうな気がしました。
 もうこれは、寝たら記憶を失くすんだ。
 そう心に決めたのです。
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