自称ぽんこつ令嬢は今日も記憶をなくしたいのに、殿下の溺愛が止まりません。

 国王様は感心そうにそう言いましたが、別に大した能力ではないのです。ただ他の人より、鼻がよく利くのです。
 だからといって、これは褒められた力ではありません。

 令嬢が犬と変わらない嗅覚の持ち主など、何の意味があるというのでしょう。
 どうせなら、もっと他の能力なら良かったのにと、いつも思います。

 鼻がいいというのも困ったものなのです。
 その人がそれまで誰と会っていたのかすら、分かってしまうから。

 まだ幼かった頃、国王様が側妃様とお会いになっていたことを口に出してしまい、大目玉を食らったこともあります。
 それ以来、王妃様には可愛がられましたが、国王様には思ったことを口に出さないようにと口酸っぱく言われたものです。

「いえ、少しでも陛下のお役に立てたのでしたら幸せです」
「そんなに畏まらなくてもいいのよ、ディアナちゃん。貴女のおかげで、わたしも命拾いしたんですから」

 王妃様が私の肩をぽんっと叩きながら、ふわりと笑いました。
 そう、この毒は新種だったとしても毒に慣らされているリオン様と国王様はまず効かなかったでしょう。

 そうなると、さも何ともないというように微笑んでいる王妃様か私、もしくは側妃様の誰か、または全員がターゲットだったのかもしれません。
 考えただけでもぞっとします。

「ディアナ、大丈夫かい? 顔が青いよ」
「ええ、大丈夫です。ただこれをどれだけの人が口にしたのかと想像したら……」
「すぐに城の者を集めるんだ」

 国王様の招集により、謁見の間には城にいたほとんどの人間が集められた。
 ほどんどというのは、毒味役の数名とコック、そしてお下がりとしてそれを食べた侍女数名が意識のない状態で別室に運び込まれたからだ。

「これはどういうことなのだ」

 毒を口にした人間があまりに多すぎる。誰か特定の人間をというより、これでは無差別に近い。
 今までの権力争いでさえ、その相手のお茶などに毒を入れられることはあっても皆が口にするものにまで入れるなんて。

「先ほどリオン殿下の命によって捕らえた侍女も同じ毒を口にしたようです」
 捜査の指揮に当たっている騎士団長の報告は最悪なものです。彼女が今一番、あの毒に近い人物だったというのに、これでは糸口が……。
「陛下……、わたくしも死ぬのでしょうか?」
「側妃様?」

 国王様の左下の椅子に腰かけていた側妃様が、真っ青な顔でカタカタ震えていた。
 側妃様が息をするたびに、あの毒と同じ匂いが漂ってくる。
< 8 / 10 >

この作品をシェア

pagetop