【完結】売られた令嬢は最後の夜にヤリ逃げしました〜平和に子育てしていると、迎えに来たのは激重王子様でした〜
(わたしにそんなことをしてもらう価値なんてないんだけど……)
それにアデラールは必要以上にシルヴィーに触れようとしない。
いつも許可を取ってから触れたりすることがほとんどだ。
それはシルヴィーの態度のせいもあるのだろう。
「シルヴィーは僕が怖い?」
「いいえ、怖くありませんが……」
「…………そうか」
アデラールはそれだけで嬉しそうに微笑んでいる。
それにシルヴィーはアデラールに対して後ろめたい気持ちを抱えている。
それは三年前の夜会の日に本当は何があったかということだ。
シルヴィーの記憶がないことがそもそもの原因だ。
そうでなければアデラールのことを理解することができないだろう。
今も彼が遠慮していることがわかるが、シルヴィーがアデラールを襲ったことだけはわかる。
つまりアデラールがここまで下手に出る必要はないのだ。
「少しだけ二人で話しませんか?」
「君は……大丈夫なのかい?」
やはりアデラールはシルヴィーの心配ばかりしているように思う。
こうして距離があることは仕方のないことだが、前に進むと自分で決めた以上は向き合わなければならないだろう。
シルヴィーが頷くとアデラールは人払いをして、暫く二人きりにするように部屋の外に待機していたリサに頼む。
「アデラール殿下はあの日のことをどこまで覚えていますか!?」
「…………え?」
突然の質問はアデラールも目を見張っている。
「その……三年前の夜会の時のことですっ!」
「……!」
自分で言っておいて顔が赤くなってしまう。
何もないわけがないのはわかっているが、アデラールはシルヴィーが何も覚えていないことすら知らないのだ。