そのキス、契約違反です。~完璧王子の裏側には要注意~



「え…?」



忘れ、させる………。


その言葉に、心が揺れた。


律の手が、私の服の胸元のリボンに触れる。

ほどくでもなく、ただそこに指をかけているだけ。



「……彩葉が、俺を求めてくれるなら」



耳元で、囁かれる。



「俺のことしか考えられなくなるぐらい。たくさん、甘やかしてあげる」



その声は、冗談なんかじゃなくて。


精神状態がボロボロな私は、一瞬、

甘い誘い文句に、それもいいのかも──なんて思ってしまった。


きっと、委ねれば楽になる。

全部、忘れられる。


でも、それは。

——本当に大切なものまで、壊してしまう。


私は、律の胸に顔を埋めて、首を振る。



「だめ……こんなの、わたし、都合良すぎるよ」



必死に、言葉を探す。



「……律の気持ちにも……失礼だよ……」



胸にぎゅっと力を込めて、自分を引き戻す。


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