鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「ものすごくわかりにくいけど、結構周りの人のこと見てるよ。富田さんの退職に関しても、ずっと相談に乗ってたみたいだしね。だからこそ、ここにいるんだよ。ほら、牧野ちゃんの歓迎会にもちゃんといたでしょ?」
「確かにいましたけど……でも、会話には一切参加してなくて、早く帰りたそうに見えましたよ。今みたいに」

 歓迎会のときは孝仁と同じテーブルに着いていたが、彼は今のようにほとんど話はせず、黙って食事をしていた。その様子からして、こういう場は苦手なのだと思っていた。

「自分からは会話に入らないタイプみたいだからね。でも、こっちから話しかけたら、意外といろんなこと話してくれるよ」
「ええ!? あの鬼っ――」

 うっかり大きな声で裏の呼び名を口にしてしまって、慌てて己の口を塞いだ。本人には聞こえていないだろうが、一つ咳払いをして誤魔化す。

「んんっ……じゃなくて部長が? でも、私、見たことありますよ。部長にプライベートな質問をして、冷たくあしらわれてる人」
「それは会社でのことでしょ? こういう場だったら大丈夫。なんなら今から話しに行ってみる?」

 篠田は親指でクイッと孝仁を指しながら、さあ行こうと言わんばかりの表情をしている。

 本当に孝仁がプライベートな話をしてくれるのだろうか。聞けるなら聞いてみたい。そんな好奇心が顔を出すが、すぐに冷静になって己を諫める。

 孝仁の興味深い話を聞けるチャンスかもしれないが、仕事に関する小言を食らう可能性もある。後者のリスクを考えたら、不用意に話しかけに行くべきではないだろう。

「……いやいや、やめましょう。やめときましょう。私は篠田さんとおしゃべりがしたいんで!」
「牧野ちゃんたら、嬉しいこと言ってくれちゃって。そういうことなら、しかたないなー。今日は最後まで私が話し相手になってあげましょう」
「やっぱり篠田さんは神!」
「あはは。だから、大袈裟」

 結局、篠田や近くの同僚らとの会話が楽しくて、それ以降孝仁のことはすっかり頭の隅へと追いやられた。
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