鬼上司のバニーガール ~部長、あなたが撫でているのは愛兎ではなくあなたの部下です~
「今日、一緒に食事にでも行くか?」
「えっ?」
「デートがしたいんだろ? それとも食事はデートに含まれないだろうか」

 突然の話題変更ですぐには理解が追いつかなかったが、孝仁がデートに誘ってくれたのだと理解した途端、心にパーっと花が咲く。

「デ、デートだと思います! ご迷惑じゃなければ行きたいです。部長とお食事に」
「わかった。ならば、仕事が終わったら、私の車でどこかへ食事に行こう」
「えっ、車でですか? 私は近場でも……」

 デートだからということだろうか。しかし、平日の夜にそこまでしてもらうのは、さすがに気が引ける。

「この辺で二人きりで食事してみろ。明日には社内で噂になっているぞ」
「あっ……仰る通りで」

 我が社において、孝仁は有名人。この男とのデート現場を目撃されれば、あちらこちらでひそひそとされるに違いない。

 そんなことにも思い至らないとは恥ずかしい。それに比べて、この人に一切の抜かりはないようだ。

「詳しい時間はまた後で決めよう。とりあえず夜の予定は空けておきなさい」
「はい、ありがとうございます。あの、お食事に誘っていただけて、すごく嬉しいです。楽しみにしています」
「そうか。では、間違っても残業になどならないようにな」
「うっ……すぐに仕事に戻りますっ!」

 そそくさと会議室を出る。扉を隔てた向こう側では、孝仁が楽しそうな笑みを浮かべていたのだが、振り返ることもしなかった梢がそれに気づくことはなかった。
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